本稿は私見が含まれた記事です。
スポーツでベストなパフォーマンスを発揮するためには、それに見合ったウォームアップが不可欠といえます。
ウォームアップの実施時間や手法は様々ですが、特に試合の日などは「一次アップ」と称し、試合の数時間前に散歩や軽いジョギングなどを行う選手がいます。
この「一次アップ」にはどのような効果があるのでしょうか。私見を交えつつ考えてみました。
概要
運動前のウォームアップにより得られる効果は様々ですが、広く知られているのは次のような効果ではないでしょうか。
・筋温上昇
・柔軟性の増加
・呼吸循環系の応答性の向上
・神経機能の亢進
・傷害予防効果
朝イチにストレッチをすると伸びが悪い、というのは多くの選手が経験的に知るところでしょう。これにはいくつかの原因が考えられますが、その一つは筋温です。
筋温の上昇により強く、しなやかな動作が可能になります。これは筋肉の粘性抵抗が低下するためと考えられていますが、筋温が5度上昇すると、筋の収縮速度及び最大パワーが約10%増加するといわれています。
至適筋温は競技種目により異なりますが、短距離走のような瞬発系の運動では約39度(体温約38.5度)が良いとされています。インフルエンザを発症しているくらいの温度ですね。
研究の内容
研究の数自体は数多くありますが、今回は市村出版の「スポーツ生理学」及び1987年の運動生理第2巻1号より「自動および他動運動における深部温の変化」を引用させていただきながら考えたいと思います。
ウォームアップに必要な時間
「ウォームアップは最低15分は必要」という話は、スポーツをしている方ならどこかで聞いたことがあるかもしれません。
恐らくこのテの話は1945年の研究「Body Temperature and Capacity for Work」から来ていると考えられます。というか70年以上前の研究が今も生きているってスゴいですよね。
「スポーツ生理学」P42 より引用
見てのとおり筋温は15分程度で至適(約39度)に達し、 パフォーマンスは15分以上ウォームアップしても伸び止まりするようなグラフとなっています。
これだけ見ると「ウォームアップって15分で良いんじゃないの?」と思ってしまいそうですが、そうではありません。
次のグラフは右手関節の運動を一定時間行なった際の温度変化ですが、動かしていない方の手の温度は殆ど上昇していません。したがって、スポーツのウォームアップ時間はもう少し必要であると考えられます。
「自動および他動運動における深部温の変化」 より引用
筋温は運動を止めてから約3分後にピークに達しますが、皮膚温は運動を止めた直後から低下し、20分後にはほぼ運動前の水準まで戻ります。
筋温は運動後10〜15分ほどで至適範囲から外れてしまいますが、45〜90分ほどは運動前より高い水準で保たれるようです。
まとめ
・筋温は約15分の運動で至適温度に達する
・筋温は運動後10〜15分で至適範囲より低くなる
・皮膚温は運動後20分ほどでほぼ元通りになる
・筋温は運動後45〜90分比較的高いままである
完全に私見ですが「一次アップ」を分けることにより「皮膚温が落ち着いた後、筋温が温まった状態で本アップを再開できる」利点があると考えます。
特に夏の試合は暑くなることが多く、炎天下で15分のジョギング後に動きづくりやダッシュをして30分、40分連続で動いては熱中症のリスクもあります。
気温が上昇しきる前の朝イチにジョギングやストレッチを行い筋温を上げておき、試合前になったら軽く動きの確認やダッシュを行うことで消耗を避けることができるかもしれません。
今回はここまで。