本稿は私見が含まれた記事です。
陸上競技、特に短距離選手の「スタート」には多くの課題がつきものです。
姿勢や力感、足運び、腕振りと「スタート」を構成する要素は数多くありますが、まず悩まされるのがブロックのセッティングではないでしょうか。
今回はこの「スターティングブロックのセッティング」の話題です。
概要
1948年(昭和23年)のロンドンオリンピックで公式採用されて以降、スターティングブロックに関しては数多くの研究がなされてきました。
代表的なブロックの配置としては前後のブロック間の距離をもとに「バンチスタート(〜30cm)」「ミディアムスタート(30〜50cm)」「エロンゲーテッドスタート(50cm〜)」の3種類が代表例として挙げられます。
日本陸上競技連盟が公表している「中学校部活動における陸上競技指導の手引き」においてはミディアム気味のスタートが初心者向けとして推奨されています。
スタートラインから前のブロックまでの距離の目安は1.5足長、後ろのブロックまでの距離の目安も1.5足長です。
研究紹介
今回はコーチング学研究第24巻第2号より「短距離走におけるスターティングブロックの最適配置方法に関する研究」をご紹介したいと思います。
対象
100m走の最高記録11"43、10年以上の陸上競技歴がある男子短距離選手1名を対象としています。
研究の内容
フォースプレート上に固定したスターティングブロックを用いて、スターティングブロックに加えた力及び第1歩目の地面反力を測定しています。
スターティングブロックの配置は、被験者が通常行っているものをもとにスタートライン〜前足ブロックまでの距離を7cm刻み(25cm、32cm、39cm)で3種類、前後ブロックまでの距離を7cm刻みで6種類(3.5〜38.5cm)の計18パターンの組み合わせを実施しています。スタートの出だけとはいえ、かなりの本数を試行していますね。
結果
「前後のブロック間の距離が大きくなる」「前ブロックの位置がスタートラインから離れる」にしたがい、身体重心位置はスタートラインから離れていく傾向が示されました。
身体重心位置が変化したということは、セット姿勢に変化があったと考えられます。しかし、前後のブロックに加えられた力積の合計及び1歩目の力積はブロック配置を変更しても大きく変化しませんでした。
また、前後のブロックに加えられた力積は負の相関が認められています。前ブロックへの力積が大きくなれば後ろブロックへの力積が小さくなり、反対に後ろブロックへの力積が大きくなれば前ブロックへの力積が小さくなるということです。
このような結果に対し、次のような考察がなされています。
ブロック配置の変化によって,力発揮の初期条件が異なり,ブロックに力を加える際の脚の使い方が変わることが推察される.
また,前後のブロックに加えられた力積は相互に影響し合っていたことから,ブロック配置の変更によって前後のブロックの使い方が変化したことが考えられる.
一方,第1歩目の地面反力にはブロック配置が様々に変わっても大きな差が見られなかった.これは,ブロック配置の変更が及ぼす影響に対して,第1歩目が接地するまでの間で対応することにより,ブロック配置に関わらず,同様の接地ができるようにしていると考えられる.
ブロック配置を変えて一定期間トレーニングを行えば結果は違ってくるかもしれませんが、前後ブロックの使い方自体はセッティングを変えるだけで変化すると考えられるようです。
まとめ
・ブロック配置を変えることにより、身体重心位置が変わる
・ブロック配置を変えてもブロック全体、1歩目の力積に大きな変化はない
・前後のブロックに加えられた力積は相互に影響し合う
「力積に変化がないなら前足をスタートラインに近くセッティングした方が速く出られるんじゃないの?」と思ってしまいそうですが、この研究は力積にフォーカスしたものです。実際にはブロックの角度も調節しながら反応(リアクションタイム)や努力度、2歩目以降の繋ぎを重視するべきでしょう。
よくセッティングをいじりながら飛び出しの部分だけを試行錯誤している選手を見かけますが、もう少し繋ぎの部分まで見るべきかもしれませんね。
今回はここまで。