向かい風参考記録

陸上競技 その他 いろいろ

大人になってから短距離走を始めても足が速くなる可能性はあります

f:id:Wetland:20200110225901j:plain

caution!

本稿は私見が含まれた記事です。

皆さんは、大人になってから短距離を全力疾走したことはありますか。

学生の頃は部活という形でスポーツに打ち込んでいても、社会に出た後はスポーツから離れてしまった方も多いのではないでしょうか。

しかし、継続的にトレーニングを行うことができれば、60歳を過ぎてから短距離走を始めても足を速くすることは十分可能です。

今回は「大人になってから始める短距離走」の話題です。

概要

大人になってから始めるスポーツというのは、どうしても「健康増進」「運動不足解消」を目的としたものになりがちです。

現にスポーツ庁が毎年実施している「スポーツの実施状況等に関する世論調査」でも「自己の記録や能力を向上させるため」と答えた割合は僅か10%。週1回以上の運動を実施しているのが全体の半数ちょっとですから、単純計算で100人中5〜6人ということになります。

f:id:Wetland:20200110231937p:plain

f:id:Wetland:20200110232245p:plain

60〜70代は20〜50代よりも運動実施率が高く出ていますが、短距離走はどうしても競技志向的な面が強い種目です。恐らくこの年齢から始める方は少数でしょう。

研究紹介

今回はスポーツパフォーマンス研究Vol.11より「マスターズスプリンターにおける100m走の10年間の取り組み:60歳から70歳までのパフォーマンスおよびトレーニングについて」をご紹介したいと思います。

対象

満60歳から陸上競技を再開した男性1名(A競技者)が対象となっています。

A競技者の競技歴は中学時代に陸上競技、高校、大学では部活動に所属しておらず、30〜40歳の10年間はゴルフを月1〜2回ほど行っていたようです。 

研究の内容

A競技者の満60歳〜70歳までの100m走の記録変遷や取り組みの過程などが分析対象となっています。

A競技者は1回90分、週2回の陸上サークルでのトレーニングに参加しており、それに加え自身で腹筋や背筋の体幹トレーニングを週5回程度行っていたとのことです。 

f:id:Wetland:20200110235147p:plain 

結果

トレーニングの結果、満60〜67歳の間で100m走の記録が16"43から13"91まで向上したとのことです。

2秒以上タイムを短縮したこと自体素晴らしいですが、67歳の13"91は年齢補正をかけると11"16相当。現役選手と遜色ない水準まで記録が向上しています。

f:id:Wetland:20200110235843p:plain

初期は大腿四頭筋や腓腹筋など、本来メインではないはずの筋群の怪我が多かったようですが、次第にハムストリングを受傷することが増えています。また、自己記録を更新した2016年は故障がなく、出場試合が多くなっています。

f:id:Wetland:20200110235951p:plain

▲表が何故か数え年で表記されている

フォームや意識への介入については、怪我を防止しつつ動作を改善するトレーニングとして、1歩のストライドを自身の身長より低く設定したスティック走が用いられています。

競技を始めた頃は,遠くに足を着こうと意識して走っていたが,2014年頃の担当コーチから踵をお尻に速く引きつけるように言われてしばらく意識をしていた」と報告しており,疾走フォームは意識したとおりに改善されていた.

それに伴い100m 走の総歩数も65.4歩から58.9歩と短縮し,「無理して遠くに着こう」とせずとも実際にストライドも広くなり,記録も大幅に短縮していた.

走りの意識自体は大きく変化しなかったようですが、実際の疾走フォームは踵を臀部に引き付けるような形に変化しています。

f:id:Wetland:20200111000922p:plain

ちなみに、この陸上サークルでは他の60代マスターズ選手も同様に記録を大幅更新している事例があるそうな。そういった環境もモチベーションになっているのでしょうか。

まとめ

・60歳から短距離走を始めても記録を伸ばせる可能性はある

・モチベーションを切らさず、継続的にトレーニングできる環境が重要

60歳から陸上競技を始めても、その辺の中学生に勝てるくらいのレベルまで足を速くすることができる。何とも夢のある事例です。

60歳でこうなるわけですから、30、40歳から始めて100m10秒台…というケースも今後出てくるかもしれません。

また、この事例のようなチームが増えてくれば、今後は「定年退職後の趣味」として短距離走が候補に挙がってくるかもしれません。個人的には期待しています。

 

今回はここまで。