本記事は2019/2/5に投稿されたものをリライトしています。
皆さんは、冬に雪道をランニングすることはありますか。
積雪する地方では「やむなく」雪上走を行うことも多いと思います。走ったことのある方ならわかりますが、通常の平地とは全く違う感覚です。感覚が違えば、かかる負荷やトレーニング効果も異なる可能性があります。
今回はこの「雪上走」の話題です。
概要
「雪の上を走る」効果については、識者の間でも様々な意見が出ています。よく耳にする効果としては、このようなものがあります。
・バランスを取りながら走るため、体幹トレーニング的な効果がある
・不整地を走ることになるので、足首周りや下腿が自然に鍛えられる
「雪道」を走るとひとことで言っても、凍っている雪道、踏まれて固まってはいてもデコボコしている雪道、積もっている雪道、そしてその雪のせいでアップダウンが見えにくくなっている道などいろんな雪道があります。
その中をランニングするには自然とバランスが必要となり、常にインナーマッスルを鍛えることにつながります。
結果、特別な体幹トレーニングをしなくても雪の上を走るだけで体幹アップが期待できるということです。
spot+ より引用
「不整地を走ることで体幹が鍛えられる」という意見は多くみられます。私自身の体感としても「後ろへ蹴る動きが抑制される」「雪がクッションになり足底への負担が少ない」といった実感があります。
しかし、経験的なトレーニング効果が広く知られる一方、雪上走について取り扱った研究はそう多くありません。実験日の気温が低かっただけで結果にブレが出る可能性がありますし、測定も難しい等の手続き上の問題かと思われます。
研究紹介
今回は北海道体育学研究より「雪上路面と通常路面における陸上競技長距離選手のランニング時の生理学的特性と運動学的特性の比較」をご紹介したいと思います。
対象
本研究では北海道内の大学陸上競技部に所属し,長距離種目を専門とし日常的にトレーニングに取り組んでいる部員7名を対象とした.
被験者の競技レベルは5000m15分35秒〜18分台とばらつきがあったようです。
研究の内容
被験者は1〜3月に雪上路面、3〜4月に通常路面をそれぞれ走行し、差を検証しました。生理学的特性を検証する実験として呼気ガス動態の測定、運動学的特性の検討として走行動作の測定を行っています。
なお、雪上走の際の路面条件は「積雪観測ガイドブック」により「氷板」と定義されました。少し氷気味の圧雪に近いイメージでしょうか。
(氷板)圧雪に水が浸みこんで凍ったもの,厚さ1mm以上
結果
結論から申し上げると「通常路面と比較し生理学的特性・運動学的特性に大きな差は見られず走速度のみ低下した」というショッキングな結果となりました。
ランニングエコノミーに差はなく、前脛骨筋及びヒラメ筋以外の主要な筋群の活動が抑制されたことにより走速度が低下したものと考察されています。
この研究は「低摩擦路面ではバランスを取るための筋活動が活性化する」という想定があり、脊柱起立筋や腹直筋の活動量が雪上走で抑制傾向になることは想定外だったようです。
雪上路面では積極的に利用されていると考えていた体幹部の筋肉である脊柱起立筋や腹直筋の活動は,いずれも通常路面と比較して雪上路面ランニングにおいて% iEMGが少なくなっていた.
しかしながら,バランス能力にはいずれの筋,特に背筋の瞬発的な筋力発揮が必要となることや(高橋ほか,2013),低摩擦床面での歩行開始1歩目で,接地時に必要とされる摩擦係数を低下するようなコントロール動作を行う(浅賀ほか,2002)など走行動作の適応に伴い,雪上路面のランニングにおいても歩行動作と同様に体幹部の筋活動が活発になっていると想定していた.
まとめ
・雪上走は走速度を抑制する効果がある
・雪上走は必ずしも体幹トレーニング効果をもたらすとは限らない
今回のシチュエーションは限定的なものです。今回ご紹介した論文では接地時間が通常路面と変わりなかったようですから、例えばこれが深い雪ならば砂浜走のような効果があるかもしれません。また、トレランのノウハウがあるランナーなら筋活動が変わってくる可能性も否定できません。
いずれにせよ、雪上走のポジティブなトレーニング効果が今後明らかになることを期待しています。
今回はここまで。