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小山ゆう先生の怪作「スプリンター」を改めて振り返ってみる

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今週のお題は「好きな漫画」です。

世の中にスポーツ漫画は数あれど、陸上競技の短距離走を題材にしたものはごく少数。

「試合が一瞬で終わる」「戦略や戦術がほとんどない」など、そもそも漫画の題材として扱い辛いのも一因でしょう。

今回は、そんな短距離走を題材にした怪作「スプリンター」の話題です。

概要  

小山ゆう先生といえば「お〜い!竜馬」「あずみ」などの代表作が人気ですが「スプリンター」は上記2作よりも前の作品になります。

ストーリーは財閥の後継者として育てられ、陸上競技には無縁だった主人公・結城光が紆余曲折あってスプリントに傾倒していく…というものです。これだけ見るとよくあるスポーツ漫画の導入ですが、この漫画はむしろ紆余曲折の部分がメインといえましょう。

何せ「スプリンター」は全14巻ですが、主人公がマトモに競技会で走るまで4巻を要します。

それ以外は基本的に財閥のゴタゴタを解決したり、気になる子のストーキングに勤しんだり、逆に何としても光を走らせたい神野先生のストーキングに遭ったりしています。

初試合の4巻第6話「黄金の足をもつ男」では計測員が時計をウッカリ押し忘れていたため、公式試合は確認できる限り僅か7本。

・東京選手権大会 10"34(日本タイ記録)決勝棄権

・日本選手権 10"35(2着)

・東京選手権 10"05(1着・日本新)

・国際DNP杯 記録不明(3着)

・ジャック・スペンサー杯 記録不明(4着)

・室町杯 9"93(優勝・世界タイ)

・月例記録会 9"91(1着・世界新)

余談ですが連載当時(1984〜1987年)の日本記録は10"34、世界記録は9秒93。まさに9秒台が「神の領域」であった時代でした。

作中では世界記録保持者のジャック・スペンサーが9秒89に到達し「俺の9秒89は永遠」と宣言していました。

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こうして見るとウサイン・ボルトの9秒58は漫画よりフィクションじみていますね。

ネジが飛んだ登場人物たち

作中では「9秒台=神の領域」を巡り、どこかネジが飛んだ様々な登場人物が鎬を削り合います。

主人公の光は財閥後継者の好青年で誰からも好かれるカリスマ性の持ち主という、なろう系主人公も唸るハイスペック。異世界転生などする必要がありません。

しかし、作中後半では全てを投げ打って神の領域を追い求めることとなり、よくあるスポーツ漫画で見られる「精神的な成長」とは一線を画す変貌を遂げてしまいます。

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   ↑序盤 ↓終盤

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もちろんネジが飛んでいるのは主人公だけではなく、ライバル達も曲者揃いです。

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試合に乱入しコース外から出走したり、世界的ロックシンガーの地位を捨て「スプリンターになる」宣言をした直後に自らの手を破壊したりします。

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なぜか世界記録保持者のジャック・スペンサーだけは比較的まともです。

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単なる怪作で終わらない理由

ここまでご紹介した限りでは単なるトンデモ漫画ですが、本作品が単なる怪作で終わらないのは、きちんとした取材に基づいていると思われるシーンが盛り込まれているからだと思っています。

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例えば走者を正面から捉えた画ですが、体型やフォームの違いが描き分けられています。これは自分の頭の中で練っただけでは描けない構図ではないでしょうか。

また、スタートの音を「耳ではなく体で聞く」というフレーズも経験者ならではの知識です。

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トラックの決勝種目の際、フィールド種目が一時中断扱いになるのも陸上競技ではよくあることです。ブッ飛んだ設定の中にも、このように所々リアリティのあるシーンが織り交ぜられております。

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まとめ

小山先生の作品の中ではメディアミックスされていないことなどから地味な扱いの本作ですが、読み応えのある作品となっています。

もう30年前以上の作品ですが、個人的には何かの間違いでメディアミックスの話とか出ないかな〜なんて思っています。

 

今回はここまで。