本稿は私見が含まれた記事です。
スポーツやプレゼンテーションにおける「ここぞ」という場面であがってしまい実力を発揮し切れない。そんなことはありませんか。
実はこの「あがり」という現象が発生するまでには、一連のメカニズムがあると考えられています。
今回はこの「あがり」の話題です。
概要
観衆、他者評価、報酬、時間切迫。
多くのスポーツには、このようなプレッシャーがつきものです。
このプレッシャーなどの要因によりパフォーマンスが低下する現象が「あがり」と呼ばれています。
「あがり」に至るまでにはプレッシャー以外にも様々な要因があると考えられ、これまで多くの研究者により様々な見地から「あがり」の研究が行われています。
研究紹介
今回は2012年体育学研究より「スポーツにおける「あがり」の要因と要因間の関係性」をご紹介したいと思います。
対象
大学運動部及び体育系サークルに所属する786名を対象にアンケート調査を実施しています。
有効回答のうち、過去1年以内にスポーツ場面における「あがり」経験を有する535名(男子393名、女子142名)分のデータが分析対象となっています。
研究の内容
「あがり」に関する先行研究をもとに作成された、計122項目からなる質問紙が使用されました。これにより得られたデータから「あがり」現象を説明するモデルを検討しています。
探索的因子分析(最尤法,Promax回転)を行い,データの背景にある共通因子を抽出した.その後,因子間相関や「あがり」に関する先行研究に基づいて因子間の関係性を仮定し,その仮説を検証するための分析モデルを構築した.
そして,分析モデルを共分散構造分析によって検証し,「あがり」現象を説明するモデルを検討した.
ものすごく大雑把にいうと、関係のある項目同士をまとめてカテゴライズし、そのカテゴリ間の関係性を見たということです。
結果
「あがり」に関してF1〜F11までの因子が抽出されました。
・F1「運動制御の変化と悪循環」
・F2「身体異常感覚」
・F3「知覚・認知的混乱」
・F4「内向性」
・F5「自己意識」
・F6「身体重量感・脱力感」
・F7「意識的処理」
・F8「消極性」
・F9「身体的疲労感」
・F10「安全性重視方略」
・F11「熱感」
例えばF1に振り分けられた項目は「結果に結びつかない動作・プレーが増えた」「ミスから不安になり、『あがり』が促進した」「プレーが結果に結びつかなかった」などがあり「あがり」そのもの(もしくは近い)と思われます。
また、F2「身体異常感覚」F3「知覚・認知的混乱」は事前リハーサル・調整不足(失敗)から来ていそうな項目も含まれています。
以下、因子相関行列です。相関係数は「1」から「-1」までの範囲ですが、この研究では「0.40」をボーダーとして設定しています。
見ての通りF9「身体的疲労感」F11「熱感」はF1との相関係数が.40以下と低かったことから、分析対象から除外されています。
分析モデルの評価・再構築により以下の発現機序モデルが示されました。
この機序を参考にF1「運動制御の変化と悪循環」が「あがり」状態とすると、F7「意識的処理」F8「消極性」は「あがり」を促進してしまう可能性があると考えられます。
これを見る限り「いつもと違う動きをしたくなる」ということ自体「あがり」の兆候なのかもしれません。
まとめ
・「あがり」の機序は事前に対策を打てそうなものもある
・「あがり」に対処しようとすると「あがり」を促進する可能性がある
緊張したり不安になるから成績が落ちるのではなく「緊張や不安を何とかしよう」とすると「あがり」に近づいてしまう、といった感じでしょうか。
確かに、スポーツでもプレッシャーのかかる大一番を制した選手が「開き直ってプレーしました」とコメントしているのを目にします。
「緊張しないように」「不安にならないように」ではなく、緊張を当たり前と開き直り、やるべきことに集中する。事前に潰せる不安の芽には対策しておく。
何とも月並みですが、平常心とはその積み上げなのかもしれませんね。
今回はここまで。