近年、トレーニング界隈では「高強度トレーニング」の効果が喧伝されています。
確かに高強度トレーニングの効果についてはある程度エビデンスが蓄積されており、身体能力を向上させてくれる可能性があります。
しかし「高強度トレーニング」と「キツく感じるトレーニング」は完全なイコールではありません。
漫然と実施していては、主観的にただキツく感じるだけのトレーニングになっていたという場合もあり得ます。
今回は主に有酸素・無酸素運動における強度指標を交えてこれを再確認したいと思います。
運動強度について
運動強度の指標としてメジャーなのは「METs(メッツ)」「心拍数」「自覚的運動強度(RPE)」の3つでしょう。
精度でいえば最大酸素摂取量を用いたものが最も正確なように思えますが、専用の機器が必要であり日々のトレーニングでこれを用いるのは現実的ではありません。
METs
METs(MET: metabolic equivalent)とは、安静時の酸素摂取量3.5ml/kg/分を「1」としたとき、その運動が何倍のエネルギーを消費するかで強度を表したものです。
生活〜スポーツの運動での強度が地続きになっているのが特徴で、例えば散歩は「3」で時速20kmのランニングが約「20」となっています。
年齢により週に◯◯METs、というような指標を設定しやすい一方、局所的・質的な強度を計測するのには適していません。
時速4kmのウォーキングを積み上げても、時速20kmのランニングのトレーニング効果は得らないはずです。しかし、METs上では同じ数値まで持っていくことができてしまいます。
同じような理由で「全力ダッシュ+休憩」のような局所的に高い負荷がかかるものはMETsで測るには適さないと考えられます。
心拍数
セット間の回復具合や運動強度を見るには、心拍数が用いられるケースが多いでしょう。
安静時の心拍数は指を血管にあてて計測できますが、運動時の計測は困難です。大人しくガーミンやスントの機能を使うのが良いでしょう。
主に最大心拍数から運動強度を割り出す方法と予備心拍数を用いる方法があります。
・推測される最大心拍数=220-年齢
20歳であれば200、30歳であれば190ですが、日頃からスポーツをしている人はやや高めの実測値が出ます。
・運動強度=心拍数÷最大心拍数
・目標心拍数=運動強度×最大心拍数
最大心拍数200の人が強度80%の運動をしようとする場合、ここでは0.8×200=160ということで、心拍数160になるよう運動すれば良いことになります。
・運動強度=(心拍数-安静時心拍数)÷(最大心拍数-安静時心拍数)×100
・目標心拍数=運動強度×(最大心拍数-安静時心拍数)+安静時心拍数
この方法は「カルボーネン法(Karvonen Formula)」として知られています。
安静時の心拍数が60、最大心拍数200の人が強度80%の運動をしたい場合、0.8×(200-60)+60=172ということで、心拍数172になるよう運動すれば良いことになります。
諸説ありますが、カルボーネン法の50〜70%で有酸素運動としての効果が得られ、70〜80%以上で無酸素運動としての運動効果が得られるようです。
この境界は「AT(Anaerobic Threshold:無酸素性作業閾値)」あるいは「LT(Lactate Threshold:乳酸性作業閾値)」といわれています。この2つは厳密には別物ですが、今回は割愛します。
自覚的運動強度
自覚的運動強度(Rate of Perceived Exertion:RPE)は、運動中の人がどの程度「きつい」と感じているかを数値で表すものです。
主に20段階で表されるBorgスケールが用いられています。
アスレティックトレーナーに必要な検査測定の方法 より引用
この6〜20の数値に10をかけると、理屈上はおおよそ実際の心拍数になるそうです。
これが実際の心拍数とズレてくると、思うようなトレーニング効果が得られないケースが考えられます。
特に疲労状態であれば、自覚的な強度が高くてもスピードが上がらず心拍数が上がりきっていないことが多々あります。
まとめ
・運動強度は心拍数で測るのが手軽
・最大心拍数の約50〜70%で有酸素、約70%以上で無酸素運動
・ときには自覚的運動強度と実際の強度がズレる可能性もある
特に3点目の現象は、最近流行りのHIIT(高強度インターバルトレーニング)の後半で起こりうると考えられます。
特にタバタ・プロトコルは20秒の無酸素運動+10秒間の休息を6〜8セット行いますが、正しい強度で行えていれば終了直後の心拍数は最大心拍数の90%程度になると言われています。これはボルグスケールの18、19という凄まじい負荷です。
動きが鈍れば主観的にはキツく感じますが、実際の心拍数は8割の160拍/分を下回ってきてしまいます。これでは「無酸素運動」としての負荷、トレーニング効果は期待できません。
せっかくキツいトレーニングを実施するなら、高強度の「つもり」にならないよう注意が必要かもしれませんね。
今回はここまで。