本稿は私見が含まれた記事です。
皆さんは走るときの「腕振り」をどのように意識していますか?
「後ろに振る」「前に振る」「タイミングを取ることだけ意識している」「特に意識していない」…等々、人によって違いがあると思います。
では、そこに足の速い人特有の動きや感覚はあるのでしょうか。
今回は腕振りについての話題です。
概要
「腕振り」は、歩いたり走ったりすると自発的に行われる動作です。
中でも「走る」という動きの際、腕振りの役割は次の2点に大別されます。
・身体のバランスをとる
・推進力の獲得を補佐する
腕振りには体幹部の捻れやブレを防止し姿勢を保持し、走りの中でピッチやストライドを調節する役割があるとされています。
腕を組んで固定し敢えて腕を振らずに走るというトレーニングがありますが、腕振り無しでは上手く加速できないことが分かると思います。
どれが正しい腕振りなのか
「これが絶対的に正しい」という動きや感覚は今のところありません。
いわゆるトム・テレツ理論は効率的な動きの1つを示していると考えられますが、一見して無茶苦茶な腕振りでも速い選手はいますし、腕振りの動作が綺麗であっても下半身の動きと調和が取れていない選手もいます。
「前振り」「後ろ振り」のどちらが良いかについても、どちらの意識が絶対的に正しいということは無いと考えています。
強いて挙げるなら、教本では「後ろ振り」でタイミングを取るように書かれていることが多いでしょうか。
ですが、これは前振りでタイミングを取ろうとすると肩が上がりやすく、上に力が抜けやすいせいもあると思います。
このように流派(?)は様々あると思いますが、概ね以下の点は共通したポイントといえるでしょう。
・下半身の動きと調和している(妨げない)
・無駄な力みがなく、余計な力を使わない
論文の内容
腕振りが走りに及ぼす影響を扱った研究は数多くあります。
今回はその一つ、仙台大学の研究「400m走における腕振りの効果に関する研究」の一部をご紹介したいと思います。
対象
400mを専門とする学生2名が対象となっています。
1人は東北インカレ出場者(被験者a)、1人は世界選手権出場者(被験者b)です。
この被験者bですが、著者の佐藤 光浩 氏の可能性があります。
佐藤 氏は400mのスペシャリストでベスト記録45秒50。世界選手権・オリンピック両方に出場しています。
45秒5は100mに均等割しても11秒3。言うまでもなく無茶苦茶速いです。
実験内容
腕振りによる関与筋の筋放電の違いを見るため、3種類の意識の異なった腕振りを行っています。
上記のイメージで、3パターンの腕振りをそれぞれ10秒間実施しています。
筋電図は腕振りに関係していると考えられる上半身6箇所を記録したようです。
結果
被験者間で差が出ました。
上から固有の腕振りーリラックスの腕振りー強調の腕振りで、筋肉がそれぞれ上腕二頭筋、上腕三頭筋、大胸筋、腹直筋、僧帽筋、広背筋です。
被験者aの特徴は僧帽筋、広背筋が3パターンとも同じような筋放電が見られたこと、被験者bの特徴は上腕二頭筋を主に使っていることでした。
これにより、被験者aは後ろに腕を振ることが強調されており、被験者bは前に腕を振ることが強調されていると考えられます。
被験者bの筋放電量が全体的に少ないことについては、次のとおり考察されています。
(前略)
被験者bは、被験者aに比べ筋の出力を抑えていることから、効率のよい腕振りをしていると推測された。
特にリラックス時では、上腕二頭筋以外の筋放電の振幅がほとんどみられなかったことから、リラックスするためには、拮抗筋の関与を少なくすることが必要であると考えられた。
意識して拮抗筋の関与を少なくする。けっこう超人技だと思うんですが、どうなんでしょう。
まとめ
・速い選手は腕振りに無駄な力を使っていない可能性がある
・弛緩・緊張をタイミングよく意識することが重要
今回は400mの選手が対象でしたが、仮に100mの選手であればもう少し筋放電が大げさに出る可能性があります。
とはいえ、驚くべきは一流選手の無駄の無さです。
被験者a(東北インカレ出場者)も400mで50秒を切るレベルであった可能性が高く、その中で被験者b(世界選手権出場者)とこれだけの差が出るというのは、一流選手が一流たり得る要素の一端を垣間見た気がします。
何となく自動化されがちな腕振りですが、折を見て無駄がないかチェックしていくのが良いのかもしれませんね。
今回はここまで。