本稿は私見が含まれた記事です。
「一流選手の走る速さと腿の高さは関係がない」というのは、陸上競技者の間では割と知られた事実です。
日本でも1980年代は「マック式ドリル」と称された腿を高く上げるドリルが流行したそうですが、90年代に前述の事実が判明したことで一転。
過激派からは「腿を高く上げる従来のトレーニングは間違い」とまで評されるようになりました。
(ちなみに当のゲラルド・マック氏は「オイオイ腿を高く上げろなんて指導してねーよ」って感じだったそうな。マック氏も被害者です)
では、この「腿を高く上げる」というトレーニングは全く意味がないのでしょうか。今回はそんな話題です。
概要
「何が疾走速度に貢献しているのか」というのは、年齢(発達段階)や競技レベル(熟練度)によって大きく異なります。
もちろん、パフォーマンスを向上させるには 「ストライドを増大させる」「ピッチを増大させる」「ストライドとピッチの両方を増大させる」のいずれかしかありません。
しかし、そこに至るルートは対象によって様々であるといえます。
腿の高さは本当に関係がない?
実は「腿の高さがと疾走速度に相関がない」というのはある程度の年齢、競技レベルでの話。小学生くらいの年齢においては疾走時の遊脚(接地していない脚)の膝が畳まれており、高く上がっている子の方が脚が速いという報告があります。
論文の内容
今回はこの「膝を畳む」「腿を上げる」動作を小学生に実施させた論文「小学生における合理的な疾走動作習得のための補助具の開発」の一部をご紹介したいと思います。
対象
小学6年生の男女66名(動作分析は最終的に29名)が対象となっています。
「体操服があまりにも大きく、身体分析点が把握できなかった」という理由で4名が除外されててちょっと和みました。
実験内容
50m走のタイムを計測→補助具・ドリル介入→再度50m走タイムを計測しています。
補助具は小型の笛が仕込まれたクッション(?)が腿裏にくるようなもののようです。
これを装着した状態で踵を補助具に当てて鳴らすドリル、二人組になりパートナーが手に補助具を装着し、その手に膝を当てる腿上げドリルなどを行なっています。
介入は授業1コマに収まるよう45分。トレーニング時間としては短めです。
各角度の定義については上記のとおりです。
結果
膝関節角度・腿上げ角度と疾走速度の関係ですが、結果を見る限り中程度の相関でしょうか。もう少し高く出る気がしていたのでちょっと意外です。
練習後にはピッチ・ストライド共に向上しており、タイムも平均値で比較すると0.12秒短縮しています。
100mでいうと0.3〜0.4秒くらいの更新幅でしょうか。
一方で最小膝関節角度、最大腿上げ角度および大腿部振り出し角度ともに練習前後で有意差が認められなかったようです。
ただし、練習前に膝があまり畳まれていない子や腿が上がっていない子/そうでない子の変化を見ると、練習後にはいわゆる至適範囲に近づいたような結果となっています。
まとめ
・膝を畳み、腿を上げるトレーニングは小学生くらいには有効である可能性がある
・授業1コマ分でも、適切な指導でタイムが向上する可能性がある
今回は練習前後の最小膝関節角度・最大腿上げ角度に有意差が出ませんでしたので、補助具は万人に有効なトレーニングではないのかもしれません。
しかし、もともと膝の畳みが浅く、腿が低い子どもには効果があったようです。
逆上がりができない子には逆上がりの補助具が有効、という現象と似たようなものでしょうか。
この研究は子どもが対象ですが、もしかすると遊脚のリカバリーが遅れがちな成人にも有効なトレーニングかもしれませんね。
今回はここまで。
【追記】
本記事ですが、論文著者である木越先生が筑波大学陸上競技研究室に書かれたコラムと内容が丸被りするという失態を犯してしまいました。
謹んでお詫び申し上げます。