本稿は私見が含まれた記事です。
陸上競技などの試合日は、レース間に大きなバケツに水を入れてアイシングしている選手を見ることがあります。
果たしてこの「アイスバス」(本来アイスバスは水に氷が入った状態を指すらしいですが) どういった効果があるのでしょうか。
今回はアイスバスについての話題です。
概要
「アイスバス」はスポーツの現場で広く実施されているリカバリー方法です。レースの間やレース後の夜に行う選手もいます。
かのウサイン・ボルトも、試合後は翌日のレースに向けてアイスバスによるリカバリーを行なっていたようです。
Bolt could be ready to chill out after yet another easy win, says legend Wells より引用
「アイスバス」は広く実施されているとはいえ、その実施方法には差があります。
水を満たしたバケツに脚を突っ込むだけのものもあれば、上記のように水に氷を入れて温度を低くしたものもあります。
どういった効果が期待されるのか
実施方法に差異はあれど、期待される効果としては概ね次の通りでしょう。
・筋肉の炎症を抑える
・神経を沈静化させる
・心拍数を整える
・疲労を回復させる
特に激しい運動の後には体温が上がり、筋肉の炎症が起こります。
特にレース間が数時間ある場合、この状態が続くと消耗してしまいます。アイスバスにはこの炎症を鎮め、消耗を防ぐ効果があると考えられています。
推奨される実施方法は
実施方法について様々あるようですが、ざっと調べた限りはこのような感じでした。
・運動終了後1時間以内(できれば15分以内)に行う
・水温は11〜15度
・水に浸かる時間は15分前後
一般的な水道水の温度は20度弱(16〜17度)くらいでしょうから、水風呂よりもかなり温度を低く設定する必要があります。
氷を加えるからでしょうが、けっこう冷たいのを我慢する必要がありそうです。
アイスバス入浴時間のガイドラインによると、水風呂くらいの温度だと20〜25分の入浴が推奨されているようです。長い。
水温/入浴時間
18度以上/〜30分
15〜18度/20〜25分
12〜15度/15〜20分
10〜12度/12〜15分
7〜10度/8〜10分
7度未満/回避
ただこのガイドライン、色々な所で転載されまくっていて大元の情報源が見つからなかったんですよね。
一応11〜15度ゾーンの時間が15〜20分程度となっていますので間違った情報ではないと思いますが、伝言ゲームのように一部情報が歪んでしまっている可能性もあります。
論文の内容
「リカバリー」を扱った研究というのは、条件の統一や他の要素を除外するのが難しい分野です。
そのため、アイシングに関しても肯定的・否定的な結果の論文がそれぞれ存在します。
今回は「アイスバス」に焦点をあてた鹿屋体育大学の研究「アイスバスがサッカー競技における特異的体力テストの パフォーマンスに与える影響」をご紹介したいと思います。
対象
大学サッカー部に所属する男子選手13名が対象です。
n数としてはちょっと少な目でしょうか。
実験内容
サッカー試合中に繰り返される間欠的な高強度運動を反映するとされるYo-Yo Intermittent Recoveryテスト(以下YYIRテスト)を試合の前半・後半を想定し15分間のハーフタイムを挟み2回実施しています。
YYIRテスト、初めて見ましたが緩急のあるシャトランといった感じでしょうか。
YYIRテスト前、前半終了後、後半YYIRテスト前、後半YYIRテスト終了後に以下の項目を測定しています。
・大腿部前面の皮膚温
・等尺性収縮による膝関節伸展力
・垂直跳び跳躍高
・30m走タイム
条件設定ですが①ハーフタイム間に座位にて15分間の安静をするRest 条件②10分間の(Cold Water Immersion : CWI) によるアイシングを実施後、座位にて5分間の安静をする CWI条件を設定しています。
現場での応用を見据えたものなのか、CWI条件のアイシング時間はハーフタイムに収まる時間内、水温は15度弱に調節したとはいえ、大型サイズのゴミ箱を使用しています。
結果
Rest条件と比較し、CWI条件はYYIRテストの走行距離低下が有意に抑えられています。
また、大腿部前面の皮膚温も抑えられています。
等尺性収縮による膝関節伸展力には差が出なかったようですが、一方で垂直跳び跳躍高と30 m走タイムが低下してしまいました。
とはいえ、後半のYYIRテスト実施後にはほぼ同程度の水準まで回復しているようにも見えます。
まとめ
・アイスバスは氷を入れた水で実施するなら15分、水だけなら20分ほどが適正
・運動間のアイスバスは間欠的な度運動能力低下を抑制する可能性がある
・アイスバス実施直後は瞬発的な運動能力が一時的に低下する可能性がある
YYIRテスト実施後に瞬発力が回復傾向であることを鑑みると、10〜15分ほど再度ウォーミングアップすることでパフォーマンス低下を防ぐことができると考えられます。
皮膚温の上昇を抑制する点も、レースや試技の間が空く日には有効に働くのではないでしょうか。熱中症や体力消耗を防ぐ点では良さそうですね。
今回はここまで。