本記事は2019/2/21に投稿されたものをリライトしています。
ハムストリング(腿裏)周辺のトラブルは、競技スポーツの選手にはつきものです。
特に陸上短距離のスプリンターは、ある程度のレベルで長く競技を続けていれば一度は故障します。程度の差こそあれ、日本代表クラスの選手もかなりの割合でハムストリング周りの故障を経験しています。
ハムストリングのコンディションはできるだけ良い状態を保つことが理想ですが、痙攣や筋断裂の兆候と比較して軽視されがちなのはハムストリングの柔軟性です。
今回はこの柔軟性が低下した状態である「タイトハム」の弊害と対策を備忘録的にまとめてみました。
ハムストリングと柔軟性
世の中の競技スポーツの多くは「走る」動きが求められます。ハムストリングは走動作において重要な働きをする筋肉ですが、ハムストリングの静的柔軟性と疾走速度(走る速さ)には直接の関係がないともいわれています。
真偽は定かではありませんが、1996年のアトランタ・オリンピック100mを9秒84の当時世界記録で制したドノバン・ベイリーはマトモに前屈できなかったとか、そういうエピソードもあるほどです。
特に近年は「運動前の静的ストレッチは瞬発力を低下させる」「運動後の静的ストレッチは回復力向上に寄与しない」といった論文が広く世に出回り、ストレッチの優先度そのものが下がっている印象があります。
「タイトハム」とは?
「筋肉の柔軟性不良」を指す「タイトネス」と「ハムストリング」を足した用語です。
英語圏の学術的なページでも見かけますので、スポーツ界隈では市民権を得た言葉と考えられます。学術的な定義に関してはバラツキがありますが、概ね「硬くなったハムストリング」もしくはその状態そのものを指すようです。
「タイトハム」の弊害
もっとも広く知られている弊害は「腰痛」ではないでしょうか。
タイトハムは、いわゆる「屈むと痛い」タイプの腰痛の原因のひとつとして挙げられています。
ハムストリングは骨盤・股関節・膝関節の動きに関与するわけですが、 タイトハムがある場合、骨盤の可動が乏しくなり腰椎や脊椎で代償的に可動するためであるといわれています。
「タイトハム」のチェック方法
テレビの番組では「前屈をした際に地面に手が着かない状態はタイトハムの兆候があり、床と手が15cm程度空いていると重症」であると紹介されていました。
徳島大学医学部のページで公開されています「四国医学雑誌」第69巻では、タイトハムの状態について下記のとおり示されています。
このように「床に手が着かない」「骨盤が後傾気味になる」場合は、タイトハムの疑いがあるとみてよいのではないでしょうか。
「タイトハム」解消方法
タイトハムというのは通常よりもハムストリングが硬く縮まった状態と考えられますので、通常の前屈では効果が出にくいといわれています。
タイトハム自体の症例や定義づけは数あれど、識者に支持されている運動があります。徳島大学整形外科の西良 浩一 教授が考案した「ジャックナイフ・ストレッチ」です。これは「筋肉が伸ばされようとすると反射的に縮む性質」を利用したものです。
実施方法
西良 教授が公開されています資料を引用させていただきます。
ジャックナイフとは「折り畳み式ナイフ」のことで、胸とふとももをぴったりと付けて、体を半分に折り畳んだようにして、できるだけ膝を伸ばしていくストレッチです。
ジャックナイフ・ストレッチの方法は図2の左のように、まずは、しゃがんで、足首をしっかりと握り、胸と太もも前面をぴったりとくっつけます。
そして、図 2の右のように、この状態から、膝をできるだけ伸ばしていきましょう。
その際に、胸と太ももが離れないように注意することが必要です。股関節を完全屈曲した状態で、膝を伸ばすというのが特徴です。このポジションで、膝をできる限り伸ばすように10秒間力を入れましょう。
これを5セット行います。 朝と夜の2回行えば効果的です。このストレッチは、前述のアクティブ・ストレッチに分類される、筋生理的反射を巧みに利用した理想的なストレッチです。
実施方法は至ってシンプル。しかし、大腿四頭筋が収縮することで拮抗筋のハムストリングが弛緩するという仕組み(相反抑制反射)を上手く利用したアクティブストレッチとなっています。
実施効果は?
検索するといくつか実験結果が出てきますが「4週間で立位体前屈に20cm前後の改善がみられた」ケースもあるようです。
先ほどの「四国医学雑誌」第69巻内の写真を見ると、かなりかなり改善されているように見えます。
「四国医学雑誌」第69巻 より引用
子どもに柔軟性をつけさせるためには より引用
この効果自体は子ども、成人問わずみられるようです。
まとめ
・競技スポーツの選手はタイトハムになる可能性がある
・タイトハムは腰痛を誘発する可能性がある
・タイトハム対策にはジャックナイフ・ストレッチが推奨されている
かくいう私も昔から体が硬く、立位体前屈で床に指が着きません。
ジャックナイフ・ストレッチは10秒×5セットと比較的手軽なので継続して取り組んでみたいと思います。
皆さんも取り入れてみてはいかがでしょうか。
今回はここまで。