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スプリンターの走る本数や頻度はどのくらい削っても大丈夫なのか考える

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どうも、森です。

前回の続編的な内容になります。

トレーニングの構成要素を考えてみる

短距離に限らず、トレーニングを組むときはだいたいこの3点に留意する必要があると思われます。

・強度

・量

・頻度

この3つは原則としてトレードオフの関係にあります。100m走の自己ベストが11秒00の選手が11秒1や2を想定した、ほぼマックススピードの高強度トレーニングを「何十本」も「毎日」継続することはできません。よしんば短期的に継続できたとしても、怪我のリスクや慢性疲労のリスクが付きまといます。

したがって、トレーニングを組む際はこの3要素の総和が極端に増減しないよう管理する必要があります(極端に増減させてピーキングするという手法もあります)。

スプリンターにとって大切なものは…

上記の3要素のうち、スプリンターにとって最も重要な要素を敢えて挙げるとすると「強度」ではないでしょうか。

短距離走のトレーニングメニューに「設定タイムを維持できなくなった時点で終了(脱落)」という方式のものがありますが、これはまさしく強度に主眼を置いたもののひとつです。こうした条件を付与することで、強度を確保しつつ、無駄な量を消化しなくて済む可能性が高いという寸法でしょう。

「量」と「頻度」はその時々にもよりますが、個人的には「頻度」の方が重要と思います。100m走10本を週1回より、10本を振り分けて週に数回の方が走行距離は同じでもトレーニング効果は高いのではないでしょうか。

スプリンターのトレーニングについては「高強度」を維持できる範囲の「量」で適正な「頻度」実施するのが最も効率が良いといえましょう。

高強度トレーニングの量について

では「高強度を維持できる量」はどのあたりにあるのでしょうか。

筑波大学の研究「全力疾走反復条件下におけるパフォーマンス動態」を参考に考えてみます。

実験条件など 

・60mの全力疾走を10本行う

・試技間、少なくとも15分以上の休息をとる

・各試技のピッチ・ストライドから疾走速度を算出

うーん…各試技15分以上ということは、ウォーミングアップ含めて少なくとも3時間はかかっている計算ですね。「疲労が残らないように」という配慮だそうですが逆に疲れてしまいそうです。

とはいえ、60m走ならば6〜7秒前後で終わるはずですから、15分くらい休息をとれば、理屈上は全快に近いコンディションまで持っていけるでしょう。

実験結果

実験の結果、平均疾走速度は次の折れ線グラフのようになっています。棒状のグラフは最大疾走速度の出現頻度のようです。十分な休息をとり、かつ60mという短い距離であってもかなり低下していることがわかります。

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全力疾走反復条件下におけるパフォーマンス動態 より引用

実験結果を読み込んでいくと、個人差はあれど6本目まで緩やかな下降を示した後はガクッと平均疾走速度が低下したことがわかります。10本目はいわゆる「ラスト効果」で少しだけ持ち直しかけていますが、それでも最初の1〜2本目と比較すると明らかにスピードが低下しています。

また、本数を重ねるとピッチに依存してスピードを生み出そうとする傾向が見て取れます。「走り込みでもがくフォームに慣れると全力走のフォームが崩れる」という主張をする選手・指導者がいますが、あながち間違いではないのかもしれませんね。

走る本数はどこまで削っても大丈夫なのか

上記の実験はひとつの例であり、それひとつをもって結論を出すことは早計です。

しかし、私見を交えて述べるのであれば、強度を確保できる前提で「ショートダッシュを3〜7本」まで圧縮しても大丈夫ではないでしょうか。

現場レベルではよく見かける「7本」という半端な本数設定も「強度を維持できる6本」と「ラスト効果を見込んだ1本」の合計と捉えるなら、それなりに根拠があるのかもしれません。

高強度トレーニングの頻度について

トレーニングの頻度については個人差も大きく、世の中には様々なメソッドがあります。

参考までに自己記録10秒51、マスターズのM40で10秒87の日本記録を持っておられる譜久里 武 氏のブログからトレーニングについての考え方を引用させていただきます。

(前略) 私は基本最高の競技力を伸ばすには週4日でいいと思っている。現に日本選手権や理想の走りが出来たシーズンはそれでかなり記録が飛躍的に伸びた。

平日に1日〜2日 土日に2日 とか。週5日より週3日だとさらに効率がいいし、筋肉ダメージも少ない。基本身体を習慣的に動かせばかなりのパフォーマンスは上がると思う。

社会人スプリンターの現状より引用

譜久里 氏は現在、走る練習を週3日、ウェイトトレーニングを週1日で組まれているようです。週に3日の時もあるようですから、効率を突き詰めていけば週に3〜4日のトレーニング頻度でも、100m10秒台相当に到達することは可能ということになります。

そうなってくると「維持」のハードルはより低いと考えられます「ウエイトトレーニングの筋力は週1で維持できる」みたいな情報は少し探すと出てきます。走りとウエイトは違うものですが、週に2〜3回でもそこそこの維持ができうるのではないでしょうか。

最終的にはマクロな視点でバランスを取るべき

ここまでの情報を極端に統合すると「全力走3本を週3回でも十分いける」みたいな感じになってしまいますが、当然高強度のショートダッシュ系ばかりしていては記録は頭打ちになります。

2011年の大邱世界選手権200m代表の斎藤仁志選手はこのような内容をブログに書かれていましたが、時期によってはかなりの走り込みをしていたようです。

(前略)仮に今から300メートル10本を2Set行うトレーニングがあるとしよう。設定タイムは40±1秒、小休止は300メートルウォーク、Set間は20分。

(中略)

私はこのトレーニングを消化する際に恐らく「辛くなったからやめる」といった行動をとるでしょう。 私はそもそも200メートル競技者に300メートル20本という耐乳酸性トレーニングや持久的トレーニングはそこまで必要ないと思ってます。

だから私は「適当に設定タイム通りに走り、それなりに乳酸が全身に溜り、自己の動作が非合理的になった時点でやめるに違いありません。

でもこの判断は間違いなのかもしれません。今私の頭にはこのような不等式があります。

スプリンターに必要な練習量≠自分がきついと思いやめる時の練習量

簡単に言えば、「キツいと思っていても、スプリンターにはやらなければいけない絶対的な練習量がある」といったところでしょうか。だから計画した練習は絶対に消化しないといけない…ということには直接繋がりません。

そもそも計画した練習量≠スプリンターに必要な練習量ということも考えられます。

つまり計画した練習量≠スプリンターに必要な練習量≠自分がきついと思いやめる時の練習量なわけですが、これをできるだけ計画した練習量≒スプリンターに必要な練習量≒自分がきついと思いやめる時の練習量にしていかなければいけません。

齋藤仁志の「もっと速く走りたい!」より引用

これから本格的な冬季練習の時期ですが、トレーニングの強度や頻度について、従来のやり方を見直してみるのも良いかもしれませんね。

 

今回はここまで。