本稿は私見が含まれた記事です。
数あるスポーツ障害のなかでも、アキレス腱の炎症は厄介です。炎症部位や原因が多様であり、腱周辺の血流が少ないことなどから慢性化しやすいからです。肥厚や神経過敏のような症状が出ていることも多いのですが、そのような症状には遠心(伸張)性エクササイズが有効とされています。
今回は「アキレス腱障害改善のための運動プログラム(エクササイズ)」の話題です。
概要
アキレス腱障害に対する治療方法は種々ありますが、なかでも筋が伸ばされながら力を発揮する遠心(伸張)性エクササイズは高い効果が期待されています。はっきりとしたメカニズムは100%断定できませんが、おおよそ以下のような説があります。
「コラーゲン繊維の配列正常化」「血管新生の消失」といった表現を見かけることもありますが、いずれも概ね「腱組織の再構築」「神経過敏の抑制」が期待できるようです。
参考資料
今回はオックスフォード大学付属病院が公開している「Achilles Tendinopathy: Advice and Management Information for patients」から、3段階のエクササイズをご紹介したいと思います。
実施上の注意点
遠心(伸張)性エクササイズ実施にあたっては、以下の点について注意が必要です。
- エクササイズ開始当初に痛みが出る場合がある
- 痛みが0〜10点中4点を超える場合はエクササイズを中断し別途治療
- 朝の足首の強張りが悪化した場合はエクササイズ量を減らす
- エクササイズ量を減らして効果がない場合は2〜5日間休養
- 少なくとも12週間、毎日忍耐強く実施する必要がある
アキレス腱炎は一朝一夕で効果を期待できるものではなく、フェーズごと2種類のエクササイズを毎日継続することで朝イチでの強張り減少〜圧痛減少に到るようです。各フェーズとも2種目を15回3セットを午前・午後の1日2回ということは、毎日180回。確かに忍耐が肝要ですね。
フェーズ1
両足で真っすぐ立ち、痛みのない方(健側)の足を使ってつま先立ちになります。その後、腱痛のある(患側)足を含めた両足に荷重し、ゆっくり踵を地面まで下ろします。これを15回3セット行い、1日2回繰り返します。膝を屈曲させたバージョンも同様の回数行います。
フェーズ2
フェーズ1が簡単になったら2に進みます。フェーズ2は健側の足でつま先立ちになり、患側の足だけで踵を下ろしていきます。あくまで片足になるのは下ろす動作のみ、という点に注意が必要です。こちらもフェーズ1と同様の回数行います。
フェーズ3
フェーズ2が簡単になったら3に進みます。基本姿勢はフェーズ2と同じですが、段差を使って踵をより低い位置まで下ろすことができます。たまに患側の足のみでつま先立ち→下降を繰り返している動画がありますが、あれは厳密には正しくありません。患側の足には下降時の遠心(伸張)性収縮のみをかけていくのが本来の実施方法です。
余談ですが、フェーズ3のエクササイズは『アルフレッドソン・プロトコル(Heel Drop Exercise)』という名前でも有名です。整形外科医のアルフレッドソン自身が慢性的なアキレス腱痛に悩まされながらも人員不足のため治療を受けられず「ならいっそアキレス腱を断裂させて手術してもらおう」と思い立ち実施したのが始まりだそうです。結果として断裂させるつもりが徐々にアキレス腱痛が改善してしまったそうな。
フェーズ3に慣れた場合、重りを入れたリュックを背負うなどして荷重していくと良いでしょう。
まとめ
・アキレス腱炎には遠心(伸張)性エクササイズが有効かもしれない
・一朝一夕には効果がなく12週間の実施を要する
研究によっては1日180回実施しなくても良いとするものや、10週間程度でも効果が認められるといったものもあるようです。アキレス腱に微細断裂が生じていた場合、これらのプログラムにより悪化の可能性も考えられます。また、10〜30%の方では効果が認められないそうです。したがって、遠心(伸張)性エクササイズは医師や理学療法士の許可のもと実施するのが望ましいと思われます。
今回はここまで。