向かい風参考記録

陸上競技 その他 いろいろ

往年の名選手ロブソン・ダ・シルバのトレーニングや哲学から学ぶ

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caution!

本稿は私見が含まれた記事です。

最近はYouTubeやTwitterで情報を発信するトップ選手も多くなり、手軽にトップ選手の動きやトレーニング内容を知ることができるようになりました。

反面、一昔前の選手の情報はどうしても埋もれがちではないでしょうか。

温故知新ということで、今回はかつての名選手のトレーニング等を少しご紹介したいと思います。 

概要

ロブソン・ダ・シルバは100m10"00、200m19"96、400m45"06のベストを持つ、かつての200mの名手です。

1988年のソウルオリンピックで銅メダルの実績がありますが、世界選手権は87、91、95年で4位。当時の100mの世界記録が9秒9台だった時代に100m〜400mまでこの水準で揃えながら、カール・ルイス、マイケル・ジョンソンといった世界記録レベルのスーパースターに挟まれ、どちらかといえば「苦労の人」といった印象の選手です。

資料紹介

「スポーツ活動における陸上競技の効果的指導法に関する一考察」はスポーツ教材等を取り扱うソーケン・ネットワークのwebサイトに格納されている資料です。当時、栃木県立田沼高校に勤務されていた奥澤 康夫先生が編纂されています。

陸上競技に関する様々なトピックがまとめられていますが、その一部に1990年にロブソン・ダ・シルバ選手からの聞き取り等を基にしたデータが記されています。

走りのイメージについて 

スタートは最初の3歩が「ハの字」になりすぎると良くない。2歩目を外に出し過ぎないように注意する。スタートの基本動作の習得はジュニア時代に身に付けるべきである。

最高スピードの維持が最も重要な課題である。常にLEWIS(USA) を意識する。(彼には負けたくない!)最高スピードの維持のためには、脚のスムーズな動きが必要である。そのためには神経支配を常に考えながら、卜レーニングを行うようにしている。

腕振りは乳頭の5cm位上を、ゆらさないような感じで肩を中心に強く振る。肘はできるだけ下で振る。腕振りは前後を強調すると、肩が上がりリラックス出来なくなるので、脇をあげ、やや横目に振る。

上半身は、地面に対して作られる角度が、直角までは何とか許せるが、やや前傾した方が上半身に力が入らない。

肩を中心とした腕振り、最高スピードの維持を念頭に置くなど、走りのイメージ自体はかなりオーソドックスなもののように感じます。だからこそ400mまでマルチに走り切れたともいえるでしょうか。

トレーニングについて

シーズン中のスケジュールは、毎日の状況に応じて変化させる。C. Pの判断により内容を指示し、R.D.Sが調節しながら実施する。練習中でも全力疾走を積極的に取り入れることがポイントである。全力疾走に伴う傷害は恐れずに、傷害防止に最善を尽くすことの方が大切なことである。

鍛練期(Basic phase)の練習内容は、表 4-3-3-3の通りであるが、昼食は取らずに10月の開始時で1日5時間程度から始め、徐々に時間を伸ばしながら、3月には8時間程度行う。4月からトラックシーズンに入るが、徐々にシーズンに移行する。なおウェイトトレーニングについての方法論は表4-3-3-4の通りであるが、「胸の上部及び肩を中心とした一般的なウェイトトレーニング」、と言うことだけで正確な種目は聞き出せなかった点はかえすがえすも残念であった。

休養に関しては、年間を通して試合(indoorを含む)のない時の土・日曜を積極的休養(ジョッグと動的なストレッチ体操等)とし、試合の翌日及び疲労が激しいと感じられたときは、月曜日に完全休養することにしている。

年間を通し、坂下り走のようなオーバースピードトレーニングは行わない。

「全力疾走は積極的に取り入れるがオーバースピードトレーニングは行わない」「1日5〜8時間と長めのトレーニング」「5日連続でトレーニングを行う」など、かなり独自性があります。

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鍛錬期は月・水・金に「ウェイトトレーニング」となっていますが、この日も「ウェイトトレーニング終了後のスプリントトレーニング」が設定されており、トータルで相当量の走り込みが設定されていたことがわかります。

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ウォーミングアップについて

以下の内容を約1時間かけて行う、とあります。

1.10'jogging

2.stretching

3.3×30m drills

4.4 × 100m strides (acceleration)

5.3 × 10m start (from blocks)

6.2×60m 100% velocity with 3're- covery

「ただし、ストレッチングの時でも腰を降ろさない」とある通り、体温の保持には気を遣っていたようです。また、試合の際は内容を若干組み替えています。

試合の時は、次のラウンドがある場合、時間を少なめに行う。時間にして45分程度である。レーシングスーツを着用して行い、召集所にいる間を休息にあて、集中を妨げられないように心がける。

ウォーミングアップ前は、Meditation(瞑想)に時間をさく。その後、椅子に座ったまま、音に対する反応を高める。さらに、音に対する反応から腕を素速く動かす動作を行い、リアクションの為の神経刺激を行った後本格的に、ウォーミングアップを開始するよう心がけている。スタート練習は競技場に入ってから行うので、ウォーミングアップ中は行わない。

1.10'jogging

2.stretching

3.2×30m drills

4.2 × 100m strides 70% velocity

5.2 × 80m 100% velocity

食事・疲労回復について

食事に関しては、厳格に自己規制していたようです。

1.食事を取り過ぎて内蔵に負担をかけない

2.食事の時間は決めないで、状況に応じて取る

3.夕食の時間は十分に考慮し、胃に負担をかけすぎないようにする

4.間食はしない

5.ビタミン剤は疲労回復のため大量に摂取する

6.刺激物は厳禁

7.熱いものは冷ましてから口にする

8.野菜、果実等以外の「生もの」は決して口にしない

9.アミノ酸やステロイドは厳禁とする

10.酒、 煙草は厳禁とする

当時と今ではサプリメント事情もかなり違いますが、ビタミン類は積極的に摂っていたようです。

プロテイン等の栄養補助食品は取らないが、ビタミン剤は疲労回復を早めたり、筋肉を良い状態に維持する働きがあるために、大量に摂取すること(含有量は不明であるが、1日に20錠以上摂取していた)。

また、筋肉のケアについては「毎日」実行していたとのことです。 

まとめ 

鍛錬期のトレーニング量こそ多めですが「高強度トレーニングも積極的に行う」「それらトレーニングを支えるケアに努める」といったベーシックな心がけを徹底しています。

現代はトップ選手の独自性のある意識や感覚、トレーニング内容が拡散されがちですが、こういった底支えの部分は昔から大きく変わらないのかもしれませんね。 

 

今回はここまで。