本稿は私見が含まれた記事です。
競技スポーツの世界ではしばしば「ばね」という言葉が登場します。
陸上競技では主に下肢のばね能力が重要視されますが、この「ばね」を鍛えるトレーニング導入時には「ばね」能力の階層を理解しておくと良いでしょう。
今回はこの「ばね」の話題です。
概要
ばねを伸ばそうとするとき、同時に伸ばされたばねが元に戻ろうとする力(弾力性)が働きます。スポーツにおける「ばね」という言葉は身体のしなり、引き伸ばされた筋腱が一気に収縮することによる跳躍力などを指します。
「走る」という動作は細かい跳躍の連続ですので、ジャンパーのみならずスプリンターやランナーにも「ばね」は重要な能力であるといえます。
研究紹介
今回は2015年コーチング学研究より「ばね能力を改善するための冬季屋内トレーニング指導方法 -中学生を対象として-」をご紹介したいと思います。
対象
中学生50名を対象に講習会を実施しています。陸上競技者だけでなく、野球・テニス・バスケットボール・ハンドボールからも参加希望があり受け入れています。
研究の内容
講習会の内容は主に講話、ウォーミングアップ、トレーニング実践。
講話の中では「ばね」能力を高める必要性、階層構造の説明が行われています。
(前略)疾走能力に影響する下肢体力要因のうち,脚筋力は上位階層に位置づけられる踏切時間が長く関節可動域が大きいジャンプ力に影響を与え,このジャンプ力が更に上位階層に位置付けられる踏切時間が短く関節可動域が小さいジャンプ力に影響を与えて おり,これらの要因が階層構造関係にあることを説明した(図子,2000;岩竹ほか,2008;岩竹・図子,2011)(図3).
講習会では,中学生が理解し易いように,下位階層にあるジャンプ力を「押し返すばね能力」,上位階層にあるジャンプ力を「跳ね返すばね能力」と表現することにした.
疾走時、地面への接地時間は1歩あたり僅か0.1秒前後です。必ずしも脚筋力が高い=疾走能力が高い、とならない理由がここにあります。
続くトレーニング実践ですが、まず下位階層の「押し返すばね能力」を高めるトレーニングとして次の内容を実施しています。
ボックスジャンプは高さ20cmの台を用い、下肢関節を柔らかく曲げて身体を沈み込ませて加重すること、踏み切り時に両腕を振り込むタイミングを合わせて全身の反動を使うよう意識させていたようです。
ハードルは76.2cmの高さに設定したフレキハードルを用い、ボックスからの飛び降り→片脚で一歩踏み込んでから両脚で踏み切り→5台連続でのハードルジャンプに移行しています。ここでは沈み込み、踏み込みに加え短い時間で最大の力が発揮できるよう指導しています。
続く上位階層の「跳ね返すばね能力」トレーニングとして次の種目を実施しています。
高さ10cmのミニハードルを用い、自ら力を発揮するよりタイミングを意識しながら踏み切ることを意識させています。
ミニハードルの間隔と台数は,両脚および片脚ミニハードルジャンプの場合,90 cm間隔で15台とし,ミニハードル・リズムジャンプの場合,180 cm間隔で7台とした.
両脚および片脚ミニハードルジャンプは,最大の力 で踏み切ることはさせず,踏み切るタイミングに腕の振り込みを合わせてリズミカルに連続で跳び越えられること,上体が前後に動かないで姿勢良く踏み切れることを意識させた.
ミニハードル・リズムジャンプは,陸上競技の指導においてポップアップドリルとも呼ばれるもので,踏 み切り一歩前の接地から踏み切りへと素早く前方移動して踏み切る運動とした.踏み切り一歩前の接地時間 を短くすること,足関節をやや背屈しながら踏み切りにいくこと,を意識させた.
結果
他競技の選手もいましたが、アンケート結果は概ね良好だったようです。
跳躍力が具体的にどう向上していくかは別の研究に委ねられることになりますが、動作やタイミングを考えながらジャンプトレーニングを行う導入としては適切だったようです。
まとめ
・「ばね」能力には階層がある
・導入期には「押し返す」動きを経て「跳ね返す」動きを体感させるのがベター
いわゆる疾走能力に近い「ばね」は脚筋力や「押し返す」ばね能力に支えられています。成人競技者の方で「最近ばねが落ちてるな」と感じる方は、その前段階の脚筋力が落ちていないかチェックするのが良いかもしれませんね。
今回はここまで。