本稿は私見が含まれた記事です。
「フォアフット走法」という言葉が半ば独り歩きし始めて早数年。
高速レースでマラソン界を席巻したケニア、エチオピア出身のランナーに前足部(つま先)から接地する選手が多かったことがブームに拍車をかけたのではないでしょうか。
今やその辺りをジョギングするランナーでもつま先から接地して走っているのを見かけるようになりました。
では従来のかかと接地(リアフット)は間違っているのでしょうか?今回はこのことについて好き勝手書いてみたいと思います。
概要
「走り」というものは「地面に接している局面」と「滞空している局面」に大別することができます。
更にこの「地面に接している局面(接地期)」は「前半」「後半」に分けることができます。
つま先から接地するフォアフット走法の特徴は、前半で生じるブレーキが少ないことであると言われています。
「足部接地パターンがランニングにおける 推進特性に及ぼす影響」という調査では、接地期(ここでは立脚期と書かれています)前半における身体後方回転力(ブレーキ)のピークがリアフット接地(RFS)より小さいという結果が出ています。
また、フォアフット接地はリアフット接地と比較し接地時間が短いという結果も出ています。
フォアフット接地を意識することが正しいのか
ブレーキが少なく、接地時間も短い。確かにこれらは速く走るための条件です。
ですが私自身「接地」は「結果としてそうなっているから」と考えていますので、意識して接地を変えることに対しては懐疑的です。
また、接地はあくまで末端の出来事です。よほどロスになっていない限りは問題視しなくても良いのではないか?と思う次第です。
論文の内容
「接地」を「結果」とするならば、走速度が高まれば接地はフォア寄りになると考えられます。
今回は群馬大学の研究「長距離走における接地動作の違いがパフォーマンスに及ぼす影響」をご紹介したいと思います。
対象
大学の陸上部に所属し長距離種目を専門とする男子23名が被験者です。
統計をかける場合のn数としては標準的なくらいでしょうか。
持ちタイムは5000mで981.5±62.3秒とあります。標準偏差的に5000m15分〜16分くらいの集団でしょうか。
実験内容
1500m、5000mそれぞれのレースペースで走行し、接地時間、滞空時間や各関節角度を算出しています。
この図から見ると、かかとから接地していくのであれば「接地角度」は大きくなり、つま先から接地するのであれば接地角度は小さくなると考えられます。
結果
5000mペースでの走速度と接地角度の関係を示した図が以下のものになります。
見てのとおり、走速度と接地角度に有意な相関関係はなかったようです。
つま先寄り、かかと寄りと様々な接地タイプがあったようですが走速度との直接関係は見られなかったとのことです。
一方、1500mペースと5000mペースでの結果を比較すると下記のとおりとなっています。
1500mペースでの走速度が高いのは当然ですが、接地角度はより小さくフォア寄りになっており、接地時間も短くなっています。
23名の被験者のうち6名は5000mの競技会に出場し、その結果も分析されていますが、レース後半になりペースが落ちるにつれ接地角度の増大が認められたとのことです。
接地について、考察でもこのように結論づけられています。
これらのことから、長距離走における接地時の足の角度に起因する接地様式は個人差が大きく、走速度に依存して変化しパフォーマンスに直接関係しないことから、指導において変える必要がないと考えられる。
しかしながら、膝関節の屈曲が走速度と関連することから、指導で接地に着目する際には、接地前に脚を突っ張っていてブレーキをかける動作になってしまっていないかどうかに着目し、重心に近い位置で接地できているかを確認する必要があると考えられる。
まとめ
・フォアフット接地、リアフット接地でパフォーマンスが決まることはない
・接地は走速度に依存して変わる
・接地を意識して変える必要性は薄いと考えられる
もちろん今回の結果はこの実験群に対してのみ言えることで、より速い群・遅い群のことは断定できません。
ですが、接地は「結果としてそうなっている」可能性が高く「フォアフットだから速くて正しい」「リアフットでは速く走れない」ではなく「スピードが高まるにつれ、自然とフォアフット寄りになっていく」という解釈が自然ではないかと思います。
もちろん「結果としてそうなっている」動きは他にもあります。走りというのは何とも難しいものです。
今回はここまで。