どうも、森です。
久々にトレーニング系の話題です。
速く走る能力は、陸上競技のみならず多くのスポーツで重要です。
特に近代は多くのスポーツでゲーム展開が高速化しており、プロチームにもスプリント専門のコーチが招致されるケースが出てきました。
「速く走るトレーニング」を検索したり専門書を見ると必ずといっていいほど「スプリントドリル」なるものが出てくると思います。
一見すると本当に効果があるのか?と思ってしまうような動作もありますが、果たしてスプリントドリルで本当に足が速くなるのでしょうか。今回はそんなお話です。
概要
「ドリル」というのは一般的に技能を定着させたり、その正確性、速さを高めたりするための反復練習のことを指します。
陸上競技にも数多くのドリルがありますが、目的は体作りや動作の自動化など様々です。どちらかというと、本練習よりウォーミングアップの一環として行われることが多いです。
今回は他スポーツを専門とする競技者にスプリントドリルを実施させるとどうなるのか…といった研究をご紹介します。
論文の内容
今回ご紹介するのは「短距離スプリントドリルが大学生野球選手の 短距離走速度向上に与える効果」。東京国際大学での研究のようです。
「研究ノート」と銘打たれたカテゴリにあることから「論文」より一つ下のカテゴリなのかもしれません。
大学野球の選手のトレーニングに短距離スプリントドリルを加え、30m走のタイム向上を目指しました。
対象
従来のトレーニングのみ行った群を「非介入群」(NT1、NT2群)、スプリントドリルを実施した群を「介入群」(WS群)としています。
非介入群を2つ用意した理由としては、NTが1群ですと「偶然」WS群との間に差が出てしまう可能性があるからでしょう。
NT2群間に差がない+WS群とNT群の間に差があるといった状態を作りたかったためと考えられます。
実験内容
介入群は約8ヶ月間、週1〜2回の頻度で「Wall Drill(WD)」「Stretch-Shortening Cycle(SSC)」の2種類のドリルを行いました。
WDは「スタティック」「チェンジ」の2種類を実施。
身体を傾けて壁に両手をつき,支持脚の踵から頭までが常に一直線になるように体軸を保つ。この状態で,遊脚と支持脚を空中で素早く入れ替えるように動かし,遊脚側の股関節,膝関節と両足首の角度は 90°を保つ。
この姿勢を基本形とし,「スタティック」は,遊脚と支持脚を入れ替えたら基本形で静止する。
「チェンジ」は,2回入れ替えて静止,3回入れ替えて静止,4回入れ替えて静止,そして合図があるまで連続で速く入れ替えるという方法で行う。
いわゆる脚の入れ替え、シザース動作を意識した壁ドリルです。実施時の力の入れ方や姿勢についても指導したようで、ただ何となくやらせた訳ではないようです。
SSCは6種類実施しています。
a.スクワットジャンプ・スプリント
進行方向に正面に向いて直立し,パラレルスクワットの姿勢から両脚でジャンプし,片脚で着地した後,接地時間を出来る限り短く,爆発的に約15 mダッシュをする。
(中略)
b.トリプルジャンプ・スプリント
スタートから3歩バウンディングをしたあとに約15 mのダッシュを行う。
(中略)
c.ラテラルホップ・スプリント
スキージャンプのアプローチ姿勢を取り,反動をつけず,頭の高さを変えないで,素早く左右へのステップを2往復行う。その直後に約15mの直線ダッシュを行う。
(中略)
d.リバーススクワット・ジャンプ・スプリント
進行方向に背を向けて直立し,パラレルスクワットの姿勢までかがんだあと,ジャンプしながら180°反転し,片脚で着地したあと素早くスタートし,約15mのダッシュを行う。
(中略)
e.プッシュアップスタート・スプリント
腕立て伏せの姿勢から,合図とともに素早くスタートする。距離は約15m。
(中略)
f.Burpee(人名)・スプリント
直立姿勢から合図とともに素早く腕立て伏せ姿勢をとり,その後両膝を素早く胸部に引き寄せたあと,再度腕立て伏せ姿勢をとり,その後素早く立ち上がる。
いわゆる「ストレッチーショートニングサイクル」を意識した動き作りを目的としていたようです。ドリルというより、ちょっと変形ダッシュっぽいですね。
結果
8ヶ月後の測定の結果、平均タイムはWS群が最も向上したように見えます。
ですがp値は0.070。「有意な差が有る(p < 0.05)」とはいえず、あくまで「有意傾向(p<0.1)」という結果だったようです。
うーん、被験者数がもうちょっと多かったら有意差が出ていたかもしれませんね。
まとめ
残念ながら、今回の研究結果からはスプリントドリルの効果をハッキリさせることはできなかったようです。
短距離走速度向上に最も特化している,陸上競技短距離種目で取り入れられているトレーニングであっても,野球選手に適した内容にするには,様々な要素を考慮する必要がある。
そもそも「パフォーマンス向上」を証明する研究は条件のコントロールが本当に難しい。
学生の卒論テーマなどでは好まれる傾向にありますが、あまりオススメしません。
被験者がケガをしたらアウト、体調が悪かったらアウト、疲労が溜まっていたらアウト、屋外の測定であれば向かい風が吹いていたらアウトです。
例えば屋内の50m走で、もう少し測定回数を増やせば結果も違ったかもしれません。
「やるだけで足が速くなる運動」は中々見つからないですね。道のりは長そうです。
今回はここまで。
【参考リンク】