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短距離トレーニングのタイムはどのくらいの範囲で設定するべきなのか考えてみる

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【caution!】

本稿は私見が入った記事です。

 

どうも、森です。

短距離走のトレーニングを組む際に頭を悩ませるのが距離や本数、タイム設定の組み合わせ。

特にタイムについては「何となく」速く設定した方が良いような気がして、つい高く見積もりがちではないかと思います。

今回は短距離トレーニングの際のタイム設定として、ベストタイムの何パーセントあたりが適当なのかを考えてみます。

前提条件

トレーニングのタイム設定は、その人の競技レベルや特性、実施時期やその場のコンディションで大きく変わってきます。

例えば「100mを15秒00で走る」という設定のトレーニングがあったとします。

これはベストタイムが10秒台の選手にとってはスプリントの感覚とはいえないかもしれませんが、ベストタイムが14秒台後半の選手にとっては十分スピード練習になり得ると考えられます。

もちろん時期によっては、10秒台の選手も冬季トレーニングの導入で流し+サーキットトレーニングという組み合わせの中で100mを15秒ペースで走ることもあり得ます。

また、トレーニングの出力設定については選手や指導者によって様々な考え方があります。

「最終的に速く走ることが目的なのだからトレーニングから、年間を通して全力に近いスピードで走るべき」という話がある一方「土台作りの時期には、ペースを多少落としてでもフォームを意識するべき」 という考え方もあります。

したがって現時点では「いかなる時も絶対的に正しい」タイム設定はないということになります。 

タイム設定の下限について

「絶対的に正しい」設定がないということで、最大公約数的な考えでタイム設定の下限について考えてみます。

私見ですが、タイム設定の下限は「ベストタイムのおよそ80%くらいの水準」と考えています。

これは選手の感覚もそうですが、教本の冬季トレーニング時期(一番スピードを落として距離を増やす時期)のタイムが「80%〜」で設定されていることが多いように見受けられることから、このように考えています。

トップ選手の感覚からみるタイム設定

2011年大邱世界選手権の200m代表の齋藤 仁志 選手(PB 200m20"42)のTwitterより引用させて頂きます。

試合明け、更には10本という本数(レストは不明ですが)から見てもシーズン中における下限スピードと考えられます。

ベスト記録の80%を機械的に計算すると20"42÷0.8=25"52となります。

これが75%ですと27"23になってしまいますので、およそベストタイムの80%を下回ると「スプリントイメージが崩れる」と感じていることがわかります。

もちろん「シーズン中は」の但し書きのとおり、冬季シーズン中にシューズで走る場合は設定を変えている可能性はあります。

論文からみるタイム設定

「どこまでタイム設定を落としてトレーニングしても大丈夫か」などというナメた論文はありませんが、 鍛練期におけるトレーニングについての論文は数多く存在します。

今回は松山大学の研究「陸上競技200m・400m選手におけるインターバル・テストを用いたトレーニング効果に関する研究--血中乳酸値を指標として」を一部引用させて頂きます。

被験者

大学の短長(200・400m系)ブロックを対象とした研究ですが、被験者の持ちタイムがバカ速いです。

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 「陸上競技200m・400m選手におけるインターバル・テストを用いたトレーニング効果に関する研究--血中乳酸値を指標として」 より引用

特に被験者Aの46秒01は相当速く、今でも日本選手権の表彰台クラスの記録です。

選手名や大学名は伏せられていますが、某体育大学と書いてありますので仮に日体大なら堀籠 佳宏 氏ですかね。

いずれにせよトップ選手です。

実験内容

実験はインターバル・トレーニングの効果を検証するものとなっており、タイム設定の考え方は下記のとおり述べられています。

同大学の準備期のトレーニングにおける設定タイムは,走トレーニングの基礎的な値であり,リズムやフォーム,接地を意識しながら走行できる設定として,それぞれ選手の最高タイムの80%から85%設定で行なわれている。 

 トレーニングの計画表でも下記の設定となっています。

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ショートのタイム設定はシーズン前は93%となっていますが、ロング系は冬季の入りですと75%。かなり設定の波を作っていることが分かります。

論文内の実験は200m×3(26秒設定、ジョグ繋ぎ)を4セット。見ているだけで吐きそうなメニューです。 

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結果については最後の参考リンクからご確認いただければと思いますが、ここまでゴリゴリに走るメニューであっても「ベストタイムの80%」設定であることがわかります。

他種目からみるタイム設定

少々こじつけになってしまいますが、同じく速筋を動員する運動であるウエイトトレーニングも参考に見てみます。

1発の強さを高めたい時は、やはり1RMの80%以上の強度が推奨されているようです。

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健康豆知識 より引用

集中力・神経系=ショートスプリントと考えると、先ほどの計画表のタイム設定と若干似通った点もあります。 

まとめ

トレーニングのタイム設定は様々な条件を加味する必要がありますが、およそ80〜97%くらいが適当ではないでしょうか。

実際にはそう単純な話ではないのですが、こじつけであっても意味をもたせたトレーニングは大事ではないかと思う次第です。

 

今回はここまで。

【参考リンク】 

陸上競技200m・400m 選手におけるインターバル・テストを用いたトレーニング効果に関する研究 : 血中乳酸値を指標として