どうも、森です。
今回は陸上競技のトラックの話です。
陸上競技、とりわけ短距離走では気候・風向きのほか「走路の反発」が記録に影響するといわれています。
長いこと競技をしていると「ここの競技場は相性が良い」など謎の好き嫌いが出てきます。
しかし好きな順=反発力の順にならないのが不思議なところ。
そこで今回は「オールウェザートラックは硬ければ硬いほど良いのか」ということについて考えてみました。
陸上競技場トラックあれこれ
陸上競技場のオールウェザートラックは「タータン」と呼称されることがあります。
この「タータン」というのは元々、アメリカのミネソタ・マイニング・アンド・ マニュファクチュアリング社(3M社)の商標名です。
1968年メキシコオリンピックの開催競技場の舗装材として採用され、アメリカのジム・ハインズが100m9秒95の当時世界記録をマークしました。
その後日本でも導入されましたが、高温多湿な日本特有の気候によって合成ゴムは著しく劣化することが判明。現在、日本国内のトラックの多くはポリウレタン樹脂による舗装材となりました。
ですから、タータンは厳密にいえばタータンではありません。
…話が逸れました。このあたりから「反発のあるトラックが選手の運動能力を引き出す」ことが認知されたといえます。
トラックの「硬さ」と「反発」
反発のあるトラックのことを「硬い」と表現することがあります。しかし、本当に「硬い=高反発」なのでしょうか。
「硬いトラック」とは
日本ゴム協会誌「総説特集 アスリートを支えるソフトマテリアル」では、走者が受ける着地衝撃をA、B2つの波形に分けて説明しています。
日本ゴム協会誌 2010 年 83 巻 5 号 より引用
このうち「波形A」は短距離走では0.01秒ほどの短い衝撃といわれています。
いわゆる「接地した瞬間に感じる硬さ」は波形Aと思われます。これが大きいと故障の原因になるようです。
いわゆる「硬いトラック」というのはこの「波形Aが大きい」走路のことを指すと考えられます。
「反発があるトラック」とは
先ほどの資料から引き続き引用させていただきます。
波形Bは着地直後から次第に身体に加速がかかり,また自発的な脚筋力の発現により加速された為の反作用として現れる地面反力(能動的衝撃力)である.
前述の図でいう「波形B」が推進力に繋がっていると考えられます。
ということは、端的にいえば「Aが小さく、Bが大きい」走路が安全かつ速く走れる走路ということになります。
この「波形B」は舗装の表面が硬いほど大きくなるといわれているようです。
日本ゴム協会誌 2010 年 83 巻 5 号 より引用
稀に遭遇する「硬い割には反発がない」トラックは、弾性のあるポリウレタンベース層が劣化しているか敷かれていない可能性があります。
特に室内競技場はポリウレタンのガワを直敷きしているような状態の所もあるとかないとか。
トラックは「硬ければ硬いほど良い」のか
下記のとおり記述があります。 孫引きになってしまい申し訳ありません…。
ハーバード大学の論文(「速く走れる競技トラック」T ・ A マクマホン)によれば,『一番硬いトラックが一番速いのではない.硬くなるほど,身体への衝撃を柔らげるために働く,足の筋肉と靭帯が疲労し痛み易い.また,そのため接地時間も長くなり,タイムロスを招くことになる.理想的なトラックは,衝撃を柔らげるだけでなくエネルギーを次々にランナーに戻して,ランナーを前進させるバネとして働く,中程度の柔軟さを持つものである.最適なトラックとは「ランナーの足の約2倍のスティフネス(硬さ)を持つトラック」である』と論じている.
日本ゴム協会誌 2010 年 83 巻 5 号 より引用
結論からいうと「単に硬ければ良いというものではない」に尽きるようです。
また、スタートから2歩目のキック反発テストの結果から「100mを50歩で走った場合、チップトラックとノンチップトラックで1秒差が生じる」と試算していますが、流石に1秒差は無いでしょう。現世界記録の9秒58もチップトラックですし。
硬い=良いとは限らない…ということは、選手と競技場の相性というものも有り得る話ではないかと思います。何せ脚の剛性やフォームの特性には個人差があります。
まとめ
- トラックは硬ければ硬いほど良いとは限らない
陸上競技場のトラックの場合、主要な利用層や目的(大会、トレーニング)によって最適な素材の組み合わせが決まってきます。
したがって現時点では「最良のトラック」は決まっていない…といえるでしょう。何か喧嘩商売の冒頭のフレーズみたいですね。
今回はここまで。
【参考リンク】