どうも、森です。
今日は話題のアニメの話を少々。
劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」の第2章が公開されてそろそろ1週間。
twitterのTLでも話題をさらっている本作ですが、本作が話題になるにつれて掘り返されるのが、第1章におけるランサーの疾走フォームです。
▲動画46秒あたりから、真アサシンを追跡する際の走り
この妙に姿勢の良いフォームが視聴者の心を鷲掴みにしたのか、晴れてグッズ化も果たしました。
Fate/stay night[HF]コラボレーションカフェ第二期(2018)
— ufotable (@ufotable) 2018年1月20日
<GODDS&ノベルティ>
台座付きアクリルスタンド(ランサー)
劇中で真アサシンを追いかけるランサーがアクリルスタンドになりました。制作に使われた本編原画を元に全身像を完全再現。
―23日よりにてOPENです―https://t.co/jXOhGn4rbT pic.twitter.com/2uW2YTpEp9
劇場版FateHFの舞台挨拶でのお話ですが、例のランサーの姿勢良い走りですが、現代では一番速い走り方なので、英霊も本気で走ればそうなるだろう、ってことであの走り方とのこと。走行中に胸の筋肉がずれてたりと作画も力入ってるようです
— Humanity (@humanity6) 2017年11月5日
今回はこのランナーのサーヴァント…じゃなかった、ランサーの走りを100m10秒台持ちのスプリンターの立場から勝手に検証・評価したいと思います。
条件設定
まずは資料ですが、先ほどの映像とグッズの静止画からの検証になります。また、映像は1.0倍速と仮定しました。
ランサーことクー・フーリンは身長体重が185cm70kgが公式設定。実際のスプリンターで185cm近くあれば80kg前後の選手が多いですので、かなり細身です。
実在するとなると、400m世界記録保持者のウェイド・バンニーキルクに近い背格好になると思います。
▲人類初の100m9秒台、200m19秒台、400m43秒台を成し遂げた超人
また、身体能力設定に関しては細かく検証し始めるとキリがありませんので「最低でも人類最高クラス」はあると仮定しました。
疾走速度の検証
映像資料がほぼ上半身の動きのみという致命的な状態ですが、何とか推測に推測を重ねて検証していきたいと思います。
疾走には大まかに「スタート-加速-等速-減速-フィニッシュ」といった局面がありますが、体幹がほぼ直立に近くなっていることから、今回の映像は等速局面と仮定します。
ピッチ(ステップ頻度)の推計
1秒間にどのくらい脚を回転させているのかという数値です。手元の映像を秒間30コマに分解したところ1歩あたり6コマであることが判明。
本当はもっと240fpsくらいの映像で評価していくものなのですが、創作のキャラに対しては不可能ですのでご容赦下さい。
▲この一連の動作で6コマ
映像は数歩分でしたが、ブレや左右差が全く見られず全て6コマ。
ランサーのピッチは30÷6=5.0歩/秒であることがわかりました。秒間5歩というのは、ほぼ「人類の限界点」 です。
例えば、日本人初の9秒台をマークした桐生 祥秀 選手は高速ピッチが特徴の選手ですが、 その桐生選手の最高ピッチが5.1歩/秒ほど。
下表の「SFmax」は、トップ選手の最高速度下のピッチです。大柄な選手は回転数が低い傾向にあります。
日本人トップスプリンターのバイオメカニクス的特長とその変化 ~桐生祥秀選手の事例的研究~ より引用
この「世界トップA」は恐らく世界記録保持者のウサイン・ボルトでしょう。やはり大柄なことから、ピッチは4.4歩/秒くらいのレースが殆どでした。
したがって、このときのランサーは185cmという身長を鑑みれば相当な高速ピッチで走行していたことが伺えます。
ストライド(ステップ長)の推計
1歩がどのくらいの長さか考えてみます。映像では下半身が写っていませんので、身長からの推計になります。
実はトップスプリンターのストライド(歩幅)は、身長比でみると一定の範囲内に収まることがわかっています。
先ほどの表であれば桐生選手は身長×1.3倍前後、世界最高のストライドを誇ったウサイン・ボルトで約1.40倍です。
仮にランサーがボルトと同じ身長比のストライドだったとすると、185cm×1.40=259cmのストライドになります。
疾走速度の推計
疾走速度はピッチとストライドの積で算出することができます。先ほどの推計値から下記のような計算になろうかと思います。
ピッチ(5.0歩/秒)×ストライド(2.59m)=12.95m /秒(46.62km/h)
ちなみに、ベルリンの世界選手権でウサイン・ボルトが9秒58を出した時の最高速度は約65m地点で12.35m /秒(44.46km/h) 。
つまり、この時のランサーは少なくとも100m9秒5を切るペースで疾走していた可能性があります。
もっと速く走れる可能性も
当然、 英霊の身体能力は人外ですからストライドはもっと出ていた可能性もあります。といいますのも、例のシーンの前では車積載車に自力で追いついていましたので、もっと速く走れている可能性が高いです。
このような大型車は最高速度に80km/hのリミッターがかけられていることが多いはずですので、ランサーが80km/hの疾走速度で追いついていたとすれば約22.22m /秒。ピッチが同じ5.0歩/秒としても1歩4.44m。とてつもないストライドです。
さすがは英霊といったところでしょう。
疾走フォームの評価
それでは最後に、観衆を虜にした例の疾走フォームを私見で評価していきたいと思います。
良いと思われる点
まず目を惹くのが直立気味の上体。体幹が潰れてしまうと地面からの反発を十分に活かすことができません。
そういった点では、この姿勢は効率が良いと考えられます。2017年世界選手権代表の多田 修平 選手は直立気味の上体が特徴的ですが、弾むような走りが特徴的です。
また、腕の振り上げ、下ろしのタイミングに左右差がなく、しっかり同調しているのも良い点です。これにより、より大きな力を地面に加えることができると考えられます。
タイミングが合っているお陰か、目立った上下動もありません。
▲振り上げ、振り下ろしのタイミングが精密
グッズ化された画像は1枚しか見当たらず、これでフォームを評価するのは憚られます。
強いていうならば、いわゆる腰高フォームのようです。高速ピッチながらもストライドを確保できている要因でしょうか。
気になる点
気になる点としては腕が前方に振り戻される際、肘がやや前に出ているということです。
これにより上体にやや捻れがみられ、ロスになっているのではないかと考えられます。
▲メチャクチャ高く上がっている
特に近年のトップスプリンターは、一見ダイナミックな腕振りの選手であっても肘は体の側面より前には出さない傾向にあります。
▲胸が常に正面を向くようなコンパクトな動き
実際にやってみるとわかりますが、肘を体の側面あたりでブロッキングした方が前方への推進力も得やすく、反発が上に抜けにくくなります。
静止画の局面は支持期の終盤〜離地局面のあたりと思われますが、支持脚の膝が伸展気味なのが少し気になります。
歩隔の違いが短距離走中の速度および動作に及ぼす影響 より引用
特に近代のスプリンターは脚の前面の筋肉で膝や足首を伸ばして走るより、これらを固定し、後面の筋肉を使って前へ進みます。
下の図でいえば、離地時はちょうど下図②のような形になっているのがひとつの理想形です。
デイリー新潮 より引用
膝を伸展させるフォームは効率が悪いばかりか、肉離れなど怪我の原因にもなります。
まとめ
ランサーの疾走フォームは現代のスプリンターとは違い、やや特徴的なフォームです。
サーヴァントは現代知識を持って現界しますが、走りに関する専門的な知識はインストールされていないのではないでしょうか。
そうであれば、ランサーの走りは現代ナイズによる改善の余地があると考えられます。
具体的には動作をコンパクト化することで、現在5.0歩/秒のピッチを更に毎秒0.2歩〜ほど向上できるのではないでしょうか。
疾走速度は既に世界チャンピオンを上回っています。今後(?)に期待しましょう。
今回はここまで。
【参考リンク】