どうも、森です。
先ほどの記事に加えて2本目です。 ちょっと近い話題です。
フォームを崩さず走る
この言葉自体は、全く珍しいものではありません。多くのコーチやトップ選手も表現の違いこそあれ、概ね同じようなことを言っています。
例えば数年前に桐生選手と対談した際、ウサイン・ボルトも「トップスピードに乗ったら、フォームを保ちスピードを維持すること」が重要であると述べています。
上記は100mでの話ですが、200mや400mでも「疲れた時もフォームを崩さない」ことの重要性がしばしば散見されます。
疲労と「フォーム」
フォームを崩さないことの重要性は、上に書いたとおり周知の事実です。
しかし、実際問題で考えてみましょう。特に疲労時においては、フレッシュな状態と全く同じ動きを維持するのは実際不可能です。
ここでいう「フォームを崩さない」「フォームを維持する」というのは、1から10までフレッシュな状態と同様の動きを維持することを指してはいないと考えられます。
全く同じ動きを続けようとすると…
やってみるとわかると思いますが、スプリントの力感・スピードの中で全く同じ動きを続けるのは大変困難です。
特に疲労時は、もがいて何とか効率的に進もうとする体の動きを押さえつけることになるので、疲労感が大きくスピードも出ません。
多くの選手は、自分の走りをイメージしたときに「この段階ではここまで膝が上がっている」だとか「このタイミングでキックしている」といった像を持っていると思います。
恐らくですが「フォーム」というのは、これら外的に観測できる部分と内的な感覚の中間、あるいは集合体を指すと思われます。
「maintain」という考え方
かのカール・ルイスを育成した名伯楽・トムテレツ氏のコンセプトとして「maintain(維持)」という概念があります。
200m日本代表の藤光選手のインタビューでも、このように紹介されています。
(前略)僕はタイムよりも、最後まで同じ姿勢で走るということを重視しているので。タイムが悪くても最後まで同じフォームで走れるように、意識づけてやっています。
(中略)
どんなに辛くなってもフォームだけは崩さない、と。レースで、最後までフォームが崩れないことにつながっていると思いますね。
そうですね。あとは最後は「頑張らない」ということですね。頑張らないと言うと語弊があるかもしれませんが、力を出そうとして頑張ろうとする選手がほとんどだと思うんですけど、それによって余計な力も使います。そういう状態になっても力を出せるとは思えないんです。
海外ではカール・ルイスの元コーチであるトム・テレツさんに教わってるんですけど、「maintain-維持する-」って言われるんです。維持する気持ちで、そこまで作り上げてきたものを最後まで維持して走りきれるかっていうところが重要かと思っていて。
頑張るんじゃなくて、頑張らないように維持するってことを最後は意識して走っているので、無駄な力が入らず走れているのかなって思いますね。
上記の考え方でいいますと、「フォームを維持しよう」と考えた時にヘンな力みが生じている…というのは、やはり本質を捉えていないということになります。
「keep」ではなく「maintain」なのも、そういったニュアンスがあるのではないでしょうか。「maintain」は単なる「保持」というより「手入れ」することで何かを同じ状態にしておくといった意味があります。
その局面局面に応じてコアとなる姿勢を保持しつつ、動感を少しずつ調整してフォームを維持していくのが「maintain」であると考えられます。
「maintain」の実践
100m10秒3を持ち、現在もマスターズで活躍されています赤堀 弘晃 氏がyoutubeにアップされている映像を引用させていただきます。
赤堀氏も「あまりの動きの質感に最初パニックになった」旨のことをブログで書かれていました。スプリンターで450mを走るということ、この動きでまとめ切れてしまうということは驚異的です。
リズム、動きの感じが最初から最後まで一定になっています。
一切もがくような動作が入っておらず、かといって、もがきを無理に押さえつけている感じでもありません。恐らくこれが「maintain」の境地なのでしょう。
まとめ
現場ではよく「フォームを乱すな!」といった言葉が出てきますが、この「フォーム」には姿勢・動き、リズムなど様々な要素が含まれています。
「フォームを維持しよう」とすると、どうしても力でコントロールしようとしがちです。しかし、考えてみた限り、どうにもそうではないようです。
「maintain」ということは、前回の記事で触れた「楽なフォーム」「速いフォーム」が上手く折り合いを付けた状態なのかもしれません。
私自身も全く体感できていない境地です。時々300m走でも入れながら探求してみようと思います。
今回はここまで。