向かい風参考記録

陸上競技 その他 いろいろ

「大腰筋を鍛えれば足は速くなる」というのは本当なのか考えてみる

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/W/Wetland/20181204/20181204184436.jpg

【2018/12/4 リライト】

どうも、森です。

忘備録兼ねてリライトしました。

 

脚を速くする方法を調べるとほぼ必ずブチ当たるのが「大腰筋」というワード。

今回はこの「大腰筋」についての記事です。

そもそも大腰筋とは…

まずは大腰筋の構造や働きについて見ていきます。

どの筋肉にも言えることですが、位置・働き・鍛え方はセットで覚えるのが良いでしょう。その方が断然意識しやすくなります。

大腰筋の構造

大腰筋(だいようきん、psoas major muscle)は哺乳類の胸椎~腰椎の筋肉で股関節の屈曲(わずかに外旋)、脊柱の屈曲を行う。

食肉家畜のいわゆるヒレ肉が、大腰筋に相当する部分である。

起始は浅部と深部に分けられる。浅部(浅頭)は第12胸椎と第1~4腰椎の側面およびそれらの間に介在する椎間円板から起こり、深部(深頭)は第1~5腰椎の肋骨突起から起始し、腸骨筋と合流して腸腰筋となり腸骨筋膜に包まれ、腸恥隆起を越えて走り筋裂孔を通って小転子で終わる。

(後略)

wikipedia より引用

うーん、一言ではわかりにくいですかね。

図解しますと下記のように腰椎〜股関節に刺さり込むような構造となっています。

f:id:Wetland:20181204184436j:plain

▲インナーマッスルという名称の所以

大腰筋のはたらき

大腰筋は下記4つの働きをもつと考えられています。

・股関節の屈曲

・股関節の外旋

・脊椎の屈曲

・脊椎の側方屈曲

走る動きでいうと、股関節屈曲は脚の引きつけ動作ですね。

股関節の外旋でも稼動するので、振り下ろし(接地時)にも使われるのではないかという説もあります。接地して地面をキックする際には股関節が外旋しますからね。

大腰筋に関係する研究

前述したように、大腰筋は走る際に稼働する筋肉であることがわかりました。

しかし、走る動作に関係する筋肉は他にも沢山あります。なぜ大腰筋がフューチャーされるのでしょうか。

 

実は、多くの短距離走の研究では疾走速度と大腰筋の筋断面積に相関関係があることが分かっています。

もちろん、股関節の伸展・屈曲に関わる筋群…たとえばハムストリングや内転筋も同じく疾走速度と相関関係があるとされています。

 

しかし、相関係数(相関係数は-1〜1まである)を見ていくとハムストリングは0.2〜0.4(もしくは相関なし)、内転筋は0.5前後の研究が多いのに対し、大腰筋は0.9という研究があります。

疾走速度との結びつきが強く出るのが大腰筋の特徴といえます。

大腰筋を鍛えれば本当に足は速くなるのか

本題です。「大腰筋が太い=疾走速度が高い」という研究は数多くあります。

しかし、多くの論文では「A~Dまでの選手の走る速さと大腰筋の筋断面積を並べるとほぼ一致しているよ!」「足が速い人は大腰筋が発達しているよ!」という書き方をしています。


「大腰筋を鍛えれば速くなる」とはちょっとニュアンスが異なります。

実際の研究

たとえば、大腰筋と疾走速度に関して下記のような報告もあります。

(前略)

男子短距離選手群でより高いパフォーマンスを持つ被験者とそうではない被験者の大腰筋のMRIの比較を示したものである.明らかに,高いパフォーマンスを発揮できる被験者における大腰筋のボリュームが大きいことが見て取れる.

(中略)

サッカー群及びコ ントロール群では,複数の短距離選手群でみられたような相関関係を全く認めることはできなかった.

大腰筋の筋横断面積と疾走能力及び歩行能力との関係 より引用

ざっくりいうと

・陸上競技選手は走る速さと大腰筋の面積に相関が認められた
・サッカー選手、それ以外の一般学生に相関が認められなかった
ということです。

上記研究は統計をかけるには標本数が少ないような気がしますので
これが全てに当てはまる真理だとは断言できません。

 

しかし、必ずしも大腰筋が発達している=足が速い、とはならないことがわかりました。

仮説 

では、その理由は何か。まともに考え出すと止まらなくなりますので、ざっと思いつく仮説を3つ出してみました。

・大腰筋は単純に足が速くなっていく上で副産物的に発達するから
・疾走速度は大腰筋と陸上競技選手特有の疾走技術が因子であったため
・サッカー選手、一般学生は大腰筋の拮抗筋であるハムストリングスが弱く均衡が取れていなかった

考え出せばもっと仮説は出せると思いますし、2と3は若干被っていますが…。

常識的に考えると、推進力は地面をキックする瞬間に得られるわけです。したがて、前提として股関節伸筋群が発達している必要があると考えられます。

となると、拮抗筋であるハムストリングスが弱かったというのは原因のひとつとしてあると思っています。

まとめ

ここまで書きましたが、そもそも大腰筋はよく分かっていないことも多いです。

 

日本の陸上界で言えば1991年世界選手権、1992年五輪で400mのファイナリストとなった高野 進先生が当時、好奇心からMRIで体内を撮影したところ大腰筋が異様に太く、「これが速さの秘密では?」とされたことが出発点のようです。

 

しかし、当の高野先生は大腰筋を特段意識したトレーニングをしていたかというとそうでもなかったと。

ですから、「大腰筋を集中的に鍛えた結果、足がガッツリ速くなった!」という研究は今のところほぼ無いはずです。

見落としているだけかもしれません。あったら是非ご連絡ください。 


事例研究的に選手を追跡調査し、疾走速度と大腰筋の面積の推移を追うのが確実なのですが、たいへんハードルが高いです。

・MRIとる費用や設備問題

・研究に時間がかかる

多くの選手のサンプルをとれない

・追跡調査している選手の足が速くならなかったら企画がポシャる etc...

といった諸問題があります。 

このことからも、研究レベルでは「大腰筋を鍛えれば足は速くなる」のか、謎はまだ多いです。

 

一方、トレーニングの現場レベルの話としては大腰筋を始めとした股関節屈筋群は積極的に鍛え、刺激してやるのが良いでしょう。

というのも、股関節は大臀筋なんかのサイズを見ればわかりますが伸筋群がどうしても強くなりがちです。

  「屈曲に伸展が間に合っていない」というより「伸展に屈曲が間に合っていない」ことが起きうると考えられます。

「足が流れる」なんかはその典型ですよね。

  

したがって「大腰筋を鍛えれば足は速くなるのかは未確定」ですが、股関節の伸筋群を十分に鍛えている場合は意識的に鍛えて損はないと言えそうですね。 

 

今回はここまで。